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石段を登って通った尾道の土堂小学校 映画作家 大林宣彦さん

雨樋をよじ登っても叱らない

映画「転校生」のロケ地に使われた御袖天満宮の石段。ここで中学生の男女が転げ落ち、心と体が入れ替わってしまう印象的なシーンが撮影された。

尾道は山の尾根筋が海の近くまで張り出した坂の町で、斜面に張り付くように家や寺が建ち並び、石畳の路地が迷路のように走っている。この町で生まれ育った大林少年は、猫がのんびりと寛ぐ路地を線路伝いに歩き、坂道を上って土堂小学校に通った。

創立100年以上になる土堂小学校。この校舎も築80年。丁寧に手入れされた味わいのある廊下を歩くと、向こうから大林少年が現れそうだ。

「石段を駆け上がって小学校の校門をくぐると、その勢いで校舎の雨樋をよじ登り、窓から3階の教室に入ったものです。わんぱく坊主の僕たちはそれが楽しくてね」
あるとき日曜日に小学校に遊びに来た大林少年は、先生が雨樋の横にハシゴを掛けて、一生懸命釘を打っている姿を目にする。
「怪訝そうに見ていた僕に、『雨樋が外れて落っこちないように壁にしっかりと打ち付けておいたから、これでよじ登っても大丈夫だぞ』とおっしゃった。当時の先生はそんな風でした。危ない真似はするなと叱るのではなく、気をつけて遊べばいいと温かく見守ってくださったのです」

機関車の玩具は映写機だった

大林家は代々続く医者の家で、大正時代に建てられた自宅は、山の手の線路を見下ろす場所に今もある。当時の医者の家は町の文化の中心でもあり、警察署長、郵便局長、校長から果てはヤクザの組長まで、地元の名士たちがことあるごとに集ってきたという。
「褌(ふんどし)一丁で輪になり、芸者衆を呼んで一晩中飲みながら、祖父と天下国家を語りあっていました」大きな納戸の中には外国船で持ち込まれた天眼鏡や骸骨、極彩色の写真といった珍しい品々が詰め込まれていた。大林さんがその納戸で、大好きな蒸気機関車の玩具を発見したのは3歳のときだ。

「実は汽車ではなくて、映写機だったのです。でもレンズが煙突、フィルムは石炭だと思って、切り刻んだフィルムを窯ならぬランプハウスに入れ、カタトンとハンドルを回して遊んでいました」
ある時、フィルムをよく見ると絵が描いてあることに気づく。刻んでしまったフィルムを母親に糸でつなぎなおしてもらって上映すると、順序がバラバラでいろんな種類の映画が混じっていたが、のらくろが現れて動いたではないか。
「これは面白いと、絵のはがれたフィルムに自分で絵を描いて繋いだらアニメができた。ここから僕の映画人生が始まったのです」
そんな子ども時代の思い出を語る大林さんの眼差しは少年のよう。「尾道は大人がベテランの子どもでいられる町。僕はそこで育ったから」という言葉が胸に染みた。

大林宣彦 (おおばやし のぶひこ)

1938年広島県尾道市生まれ。映画作家。テレビCMのディレクターとして数々の名CMを生んだ後、1977年に『HOUSE/ハウス』で劇場映画に進出。故郷の尾道を舞台にした『転校生』(82)、『時をかける少女』(83)、『さびしんぼう』(85)は"尾道三部作"として多くの映画ファンを魅了した。第21回日本文芸大賞・特別賞を受賞した『日日世は好日』など、著書も多数発表。
2004年春、紫綬褒章受章、2009年秋、旭日小綬章受章。2013年2月に発売されたAKB48のシングル「So long!」のミュージックビデオを手掛けたことも話題となっている。

  • 連載「住まいとお金」ファイナンシャルプランナー 久谷真理子
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