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ひと味違う、料理研究家のキッチン料理研究家平野由希子さん

古き良き洋風建築の味わいを慈しむ暮らし


メゾネットになった住まいの2階を丸ごとキッチン・スタジオに。無垢材の床は年月を経るほどに味わいを増す。

築80年の建物を好みの住空間にリノベーションして、心豊かに暮らす平野由希子さん。
仕事場でもあるキッチン・スタジオを拝見すると、平野さん流のこだわりがそこかしこに光っていた。
平野さんは、フランスの鋳物ホーロー鍋「ル・クルーゼ」を使った料理レシピ本がベストセラーの人気料理研究家。「ル・クルーゼ」ファンのミセスにとって、カリスマ的存在だ。
昔ながらの風情を残す東京の住宅街の一角に、大正時代の洋風建築の味わいを残して改築された集合住宅が佇んでいる。この建物に平野さんの自宅兼キッチン・スタジオがある。


キッチンは作業スペースがたっぷり取れるⅡ型レイアウト。収納スペースにミーレ社製のオーブン、食器洗い乾燥機をすっきりビルトイン。

メゾネットになったお住まいの2階にお邪魔すると、ナチュラル感いっぱいの無垢材の床に、壁も収納も「白」ですっきりと統一されたキッチン空間が広がっていた。アールヌーボー調の半円窓を残した室内は、パリのレトロなアパルトマンのよう。アーチの棚に並べられた「ル・クルーゼ」のカラフルなお鍋がおしゃれなインテリアさながらに際立っている。
「6年前にこの建物がリノベーションされるとき、自分らしく過ごせる住空間に改装して暮らし始めました。2階全部をキッチンにして、ここで毎日お料理を作り、レシピを考えたり、本や雑誌の撮影をしたりと、一日の大半を過ごしています」と平野さん。自分流のキッチンを創作するうえで、どんなことを大切にされたのだろう。

時を経て味わいを増し愛着が深まるキッチンに


元からのアーチ壁を棚に利用して、ル・クルーゼ置き場に。

平野さんのダイニングキッチンは白を基調にしながらも、温かい印象で、居ると心がやわらぐ。
「調理器具や食材などで多彩な色の要素が持ち込まれますから、キッチン空間は真っ白なキャンバスの役割でいいと思ったんです。でも、お料理を作って楽しむ場所だから、温かな雰囲気も大事にしたくて、天井と壁はほんの少しクリーム色を帯びた白にしました」
平野さんがもっとも大切にしたのは、時を経るほどに愛着の湧くキッチンづくりだ。新しいときの美しさを保とうとするのではなく、10年、20年と使い込むほどに味わいが生まれ、自分になじむ場所にしたいと考えて、素材は特に質感にこだわって選んだという。


収納扉もタイル壁もカウンターも白で統一されたキッチン。無機質にならないように、一部をオープン棚にしてグラスや食器を置いている。

床は無塗装のままの無垢材、収納の扉は白く塗装を施し、壁にはタイルも使われている。当然、床は日焼けしたり、傷ついたりするし、扉や壁も汚れやすい。だけど平野さんは、「それも味わいのうち」と目を細めた。
「床にしてもキャビネットや壁にしても、キッチンまわりの素材って、汚れにくさや掃除のしやすさを基準に選ばれることが多いですよね。でも、それだと新品のときが美しさの頂点になってしまう。それってなんだかつまらなくて、ちょっと違うなと思うんです」

機能性だけじゃ味気ない 無駄を楽しむ心のゆとりを


白壁にカラフルなホーロー鍋が引き立って、お洒落なインテリアの役割も。

空間づくりにおいても、機能的であることを最優先しないのが平野さんのスタイルだ。たとえばキッチン背後のアイレベルの収納は一部をオープンな棚にして、お気に入りのグラス類や食器を並べている。キッチンの真後ろのちょうど手の届く位置だから、ここも扉の収納にして、頻繁に使う調理道具をしまえば便利そうだけれど、あえてそうはしない。
「無駄かもしれないけれど、こんな方が使っていて楽しいし、気持ちにもゆとりが生まれると思いますから。料理だって、速く作れて便利なだけのものって、なんだか味気ないでしょう?」
手の届かない高さの収納は、ハシゴを使って出し入れする。
「今は電動で降ろせる棚もあるけれど、手間はかかってもこの方が好き。私らしくていいんです」
こんなスローな想いが宿るキッチンだから、素材そのものの味わいを上手に引き出すお料理レシピが生まれるのだなと納得。

快適のカタチは十人十色 自分自身の価値観を大切に


使い込まれた木製のヘラや調理道具がシンプルなキッチンにぬくもりとなごみを添えている。

ロジェールのコンロやミーレの電気オーブンを組み込んだアイランド型キッチンは、高さ85㎝ほど。キッチンには使う人の身長によってちょうどいいとされる高さの基準があるが、平野さんの身長に照らすとやや高めに思える。
「確かに少し低い方が食材を切る作業はしやすいけれど、低いと洗い物のときに腰が曲がって負担がかかりますし、私は仕事柄、アシスタントもいるので、そんなに切ってばかりいるわけじゃありません。それよりも長時間立ちっぱなしなので、高めの方がカウンターに寄りかかれてラクなんです」
そう、基準はあくまでも一般的なもの。快適なキッチンのカタチは十人十色で、高さに限らず、レイアウト、収納、必要な調理機器なども、作る料理、家族構成、暮らし方、性格、好みなどによって変わってくる。世間一般の基準や人気に流されないで、「私にとって本当にそうなの?」と問い直し、自分自身の価値観で納得のいくキッチンづくりをすることが大事だと平野さんはアドバイスする。
「でもね、最初からそんなに理想的じゃなくてもいいんじゃないかしら。100%要望をかなえるなんて無理なことですから。私の場合も思うようにならなかったところはいろいろありますが、それはそれ。足りないものを補いながら、このキッチンと長く上手に付き合っていきたいなと思っています」
平野さんの感性に育まれて、キッチンはこの先、さらに快適な使い心地になっていくことだろう。

平野由希子 (ひらの ゆきこ)

料理研究家。フランスなどで料理とお菓子を学ぶ。雑誌、書籍、広告、メニュー開発など幅広い分野で活躍中。『「ル・クルーゼ」だから、おいしい料理』、『「ル・クルーゼ」で、おいしい和食』(ともに地球丸)、『平野由希子のおいしい理由。』(主婦と生活社)など著書多数

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