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京町家に暮らす知恵、ひと手間かけて暑い夏に涼を呼ぶ「京町家再生研究会」理事長小島冨佐江さん

暑い夏、薄暗い座敷から眺める庭の美しさは格別。軒の簾が日差しを遮り、葦戸の素材感も夏の風情。

うだるように蒸し暑い京都の夏。
昔ながらの町家には、涼しさを招く先達の知恵が宿っている。築百年を超える町家に暮らす小島冨佐江さんの夏の過ごし方は、現代にあっても理にかなっていて心地よい。

「通り庭」と呼ぶ土間が夏は風の通り道になる

京町家は吉田兼好が徒然草に「家のつくりようは夏をもって旨とすべし」と記したように、夏の過ごしやすさを意識した工夫が多い。元呉服商だった古い町家に嫁いで28年になる小島冨佐江さんは、暑さ厳しい京都の夏をどんなふうに過ごしているのだろうか。
「真夏でも家の中はひんやりと涼しくて気持ちがいいですよ。日盛りに表を歩いて帰ってくると、家に入ったとたん、すっと体感温度が下がってホッとします」と小島さん。その秘密は風通しにあった。

建具を替えて目にも涼やかになった夏座敷。

京町家の間取りは「ウナギの寝床」と言われ、間口が狭く奥に細長い。表通りに面した側は商いの場で、その先に家族の住空間があり、敷地には通風や採光のために中庭が作られている。そして表通りから奥まで「通り庭」と呼ばれる吹き抜けの土間が続くのが特長だ。ここは人が通り抜けるのに便利なだけでなく、風の通り道にもなる。
表通り側の窓には格子がはめられ、開けていても外から中が見えにくいのも町家の知恵。また、奥へと続いていく部屋の仕切りは壁でなく、すべて襖や障子など取り外しのきく建具が使われている。これらを開放すると、表から奥まで爽やかに風が通り抜け、中庭の緑や風にそよぐ木の葉の音が目や耳に涼を誘う。

葦戸は町家の夏に欠かせない建具。閉めていても風が通り、庭の緑が透けて見える。

「縁の下も空洞になっていますから、下からも冷たい空気が通るんです。夕方、中庭と奥の座敷庭に水をまくと気化熱で気温が下がり、その温度差で空気が動いて、そよ風が家の中を循環するのがわかります」と小島さんは微笑む。  真夏になると2階は熱がこもって暑いが、その空気層が断熱効果を上げるバッファゾーンとなり、1階には暑さが伝わらない。だから小島家では、暑くなると寝室を1階に移動する。
「猫のように寒くなったら温かい部屋、暑くなったら涼しい部屋を求めて動きます(笑)。部屋の役割を固定しないですむ間取りやから、そんなふうに柔軟に使えるんです」

涼やかな夏座敷の室礼 目でも舌でも涼を味わう

座敷と座敷の間に設けられた中庭は通風と採光の役割も果たす。夕方、打ち水をすれば、心地よい微風が生まれる。

空に夏の光が差し込み始め、梅雨が明ける頃、小島家では天気の良い日を見計らって家中の建具を替え、夏の室礼にするのが毎年の習慣だ。襖や障子は外して葦戸に入れ替え、座敷簾を掛け、畳の上にさらりとした足触りの網代や籐筵を敷くと、目にも涼やかな夏座敷に生まれ変わる。
「葦の簾をはめ込んだ葦戸は風を通しながら、きつい日射しを遮ってくれる優れものの建具です。昼下がり、葦戸から庭の緑がうっすらと透けて見える様子は美しいですし、陽光が細いストライプとなってお座敷にくっきりと差し込むと、ああ夏の光やなあと思います」

中庭にはつくばいもあり、水音が涼しげ。

夏が来ると建具を替えるだけではない。小島さんは床の間の掛け軸や置物も夏のものに替えて季節感を楽しむ。そして、お茶受けには夏の冷たい和菓子を用意して、目で舌で涼を味わう。
「青竹に入った水羊羹は見た目も瑞々しいですし、口当たりも良いので、ほどよく冷やしてお煎茶やお抹茶といただきます。寒天やわらび餅をガラスの器に盛っていただくのも夏の楽しみですね。それと祇園祭のときのお客さんには、いつも決まって『葛焼き』という和菓子でおもてなしをします。我が家の夏のお菓子の定番です」
ふだんの食生活においても、季節感を大切にしている小島さん。夏はトマトや胡瓜、茄子など旬の地野菜を積極的に使い、食欲をそそるおばんざいに仕立てる。
「夏野菜には体の熱を取ってくれる働きがあるので、旬のものを口にするのは体のバランスを整える上でもええことやと思います。特に便利に使うのがお茄子ですね。お揚げや身欠きニシンを足して炊いたり、焼き茄子にしたり、蒸してお浸しにしてもおいしいので、つい出番が多くなります」

季節の移ろいを愛で 日々を丁寧に暮らす

欄間障子も開けて通風できる。

京町家の造りや生活には、自然を制覇するのではなく、自然に寄り添って暮らす知恵や心がけが深く根付いている。
「町家に住んでいると気候の変化を肌で感じますから、暑い盛りは水分をようけ取らなあかんとか、バタバタ動かんように過ごそうというふうに、行動にも気をつけますし、体も気候にきちんと順応するからか、あんまり風邪も引きません」と小島さん。むしろ季節の移ろいを身近に感じ、五感が研ぎ澄まされるようだ。
「雨が降っても風情がありますし、風が吹いて木の葉が揺れても何かを感じます。こうした感覚を大事にして、自然と対話しながら日々を丁寧に生きていきたいですね」

小島冨佐江(こじま・ふさえ)

京都市伏見区生まれ。同志社大学卒業。1985年の結婚を機に、百足屋町の元呉服商の町家で暮らす。2012年より、特定非営利活動法人「京町家再生研究会」理事長となり、現在、町家の再生活用、周知など精力的な活動を続けている。主な著書に『京の町家 丁寧な暮らし』(大和出版)、『京町家の春夏秋冬』(文英堂)など。

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