伝統建築に学ぶ、日本の間取りの知恵建築家前田伸治
日本家屋の伝統的な間取りには、先人たちの知恵と工夫か宿っている。京都市で数寄屋造りに取り組み、伊勢市で伝統民家を手がけてきた建築家の前田伸治さんは、どこに魅力を感じているのだろうか。
広さを自在に変えられる「田の字」の間取り
盛岡市・K氏邸。吹き抜けの開放感あふれるリビング。無垢材を縦横に組んだ架溝が空間を引き締めている。南側には大きな窓から自然体が広がる。
現代日本の住まいはめまぐるしく変化してきた。特に高度成長期を迎えた頃から、リビングとダイニングキッチンが一体になったLDKスタイルが普及し、間取りが大きく様変わりした。
「でも、どういう暮らし方をしたらいいのか、根底ではまだ戸惑っている人が多いのではないでしょうか。昔のように畳だけの生活にはもう戻れないと思いつつも、ソファをリビングにでんと置き、そこに座ってくつろぐ欧米スタイルにどこかで納得していない人が多い気がするのです。だからでしょう、日本の伝統家屋の暮らし方を、今の家づくりにうまく反映させたいという方が増えています」と前田さんは語る。
では、それまでの日本の暮らしはどんなふうだったのだろう。日本家屋の代表的な間取りと言えば、「田の字」型。部屋が4つ田の字になるように並んでいることからこう呼ばれる。
部屋は襖で仕切られているだけなので、襖を開放すれば二間続きになるなど、空間の大きさを自在に変えられる利点があった。昔は冠婚葬祭や法事も自宅で行うのが普通であったが、そんなときも困らない。全て襖を取り外せば、柱と天井だけの大空間になり、大勢の人を招くことができる。住み手の意志次第で、閉じたり開いたりすることができるのだ。
「うなぎの寝床」京町家で土間や坪庭が果たす役割
盛岡市・K氏邸。土間を設けた玄関。木格子の建具から光と風が通り抜ける。
懐かしい昭和時代の間取りは、漫画の「サザエさん」に見ることができる。磯野家は庭付き一戸建ての平屋で、どの部屋も行き来が楽にできる襖で仕切られ、茶の間が家の中心にある。部屋が壁で仕切られた今の住宅と比べると、プライバシーが保ちにくいが、だからこそ大切にされてきたマナーがあり、そこから日本人の奥ゆかしさや礼儀正しさが育まれてきたと前田さんは考えている。
「サザエさんがカツオを叱るときでも、ちゃんと外から声を掛けてから襖を開けています。カツオも無断で波平さんの部屋に入ったりはしない。こういうマナーが当たり前のようにあったのですね。鍵に頼らなくても、暗黙のルールで家族の関係を大事にするなかから、日本の円満な暮らしは作られてきたのだと思います」
伝統的な日本家屋のひとつである京町家の間取りも見てみよう。ここには間取りや構造に快適に暮らすための先人の知恵がふんだんに盛り込まれている。
京町家は「うなぎの寝床」と称される間口が狭く奥行きの深いつくりが特徴で、「通り庭」と呼ばれる細長い土間が走っている。この土間は奥まで土足のまま通り抜けできるだけでなく、風の通り道としての役割も果たしている。
また、台所には天井に「火袋」という煙出しの天窓があり、ここから暗くなりがちな土間に陽光も採り入れた。坪庭を部屋と部屋の間に設けたのも、採光と通風を良くするための工夫である。
「土間があると、近所の人が気軽に訪れたり、汚れを気にせず土のついた野菜を置けたりと、いろんな場面で重宝しますし、夏場は水を打つとひんやりして気持ちがいいものです。今の住宅でも、玄関横などにつくっておくと、暮らしの幅が広がると思いますよ」
変幻自在な間取りを叶えるのは豊富な道具
東京都・S氏邸。都心の二世帯住宅。両家族が集う和室には庭の眺めが楽しめる。
日本家屋の部屋は変幻自在だ。卓袱台を持ってくれば、たちまち茶の間になり、自分の部屋の座卓を片付けて布団を敷けば、夜は寝室になる。季節に合わせて部屋を居心地良くしたり、行事にふさわしい雰囲気にがらりと変えることもできる。こうした変貌を叶えてきたのが、手軽に出し入れのできる豊富な道具類である。
日本では欧米のように動かしにくい家具を部屋にあまり置かず、持ち運び自由な道具を多用してきた。衝立や屏風、簾、御簾など、さまざまな装置を上手に使い、住空間にその都度、自分たちの目的に合う機能や環境を創り出してきたのである。
また、夏の建具や正月用の膳、婚礼屏風といったように、明確に季節や行事と対応した数々の道具があった。こうした道具類をしまっておく場所が必要だったから、昔はどの家にも蔵や大きな納戸が備わっていたのだろう。
このように見ると、日本人は間取りをフレキシブルに変えることで、狭いところを広く使い、不便を快適に変えるだけでなく、道具を使って四季の移ろいや節目の行事を慈しみ、大事にしてきたことがわかる。こうした暮らしの楽しみ方や季節の過ごし方を見習って、今のライフスタイルにうまく採り入れてはいかがだろう。
前田伸治(まえだ・しんじ)
1960年、埼玉県生まれ。1991年より(財)京都伝統建築技術協会伝統建築研究所で和風建築の研究と設計に取り組む。2004年、暮らし十職一級建築士事務所設立。2007年、第4回伊勢景観デザイン賞大賞(とうふや)、2008年、第40回中部建築賞受賞(五十鈴茶屋)、2011年、第30回三重県建築賞入選(浪曲茶屋)などの受賞歴をもつ。
美しく快適な洗面空間 -基礎知識-
毎日の洗顔や歯磨き、身づくろいやお化粧、また脱衣や洗濯の場としてなど、家族全員がさまざまな目的で使用する洗面所。使いやすく、清潔さを保つことができるプランニングが基本ですが、最近では、より快適で心地よい空間づくりも注目され、多種多様な設備機器や建材も提案されています。ここでは、洗面所のプランニングの考え方やお手入れ方法、また省エネルギーにも配慮した設備機器などをご紹介します。
洗面所のプランニングの際には、その空間をどのように使用するのかを明確にすることが大切です。家族構成やライフスタイルに合わせて、必要なスペースや機能の優先順位を考えてみましょう。隣接する空間や動線などにも配慮し、朝や夜、家族それぞれの使い方をイメージしてみることが重要です。
いろいろなタイプの洗面所プラン
洗面所のプランは、いくつかのタイプに分けることができます。空間のつくりでは、洗面や手洗い専用とする場合と、脱衣室や洗濯室も兼ねるような多目的なスペースとする場合があります。また、取り入れる洗面化粧台にも、システムタイプやユニットタイプなどがあり、さまざまなプランニングが可能です。
洗面専用か多目的なプランか。用途を明確にして検討を
●洗面専用プラン
洗面や手洗い、歯磨き、お化粧などを行う専用の場所として設けるもの。家のスペースに余裕がある場合、もしくはセカンド洗面所としてみられるタイプです。寝室に隣接させて、パウダールームとしてもよいでしょう。子供部屋や玄関近くにプランニングすれば、子供が帰宅した時に手洗いやうがいなどに利用できます。
●多目的なプラン
洗面だけでなく、脱衣や洗濯などにも利用するタイプ。多くみられるのは、脱衣室を兼ねることができるようにバスルームに隣接させ、洗濯機を設置する空間プランでしょう。最近では、室内干しや洗濯物が畳めるようなユーティリティ機能のあるタイプも。湿気も溜まりやすいので、調湿機能のある壁材や耐水性の高い床材などを選ぶことも必要でしょう。
希望に合わせて選ぶ洗面化粧台タイプ
●システムタイプ
カウンターや洗面ボウル、水栓金具、収納キャビネット、扉材などを自由に組み合わせることができるタイプ。設置する空間や収納する物などに合わせて選べるため、オリジナルな洗面スペースをつくることが可能です。
●ユニットタイプ
決まった間口で作られたタイプ。洗面ボウルや鏡、収納キャビネット、照明、水栓金具などがあらかじめセットされています。間口サイズによってさまざまな商品が揃っているのが特徴で、価格やデザイン、機能のバリエーションも豊富です。システムタイプのように、空間に合わせて一部コーディネートできる商品もあります。
より快適な洗面所にするための工夫
最近のバス・サニタリープランの傾向は、心地よくゆったりとくつろげる空間づくり。限られたスペースでも広がりを感じさせる工夫やアイデア、ホテルライクなデザインも注目されています。
●バスルームと洗面所をひとつの空間として開放的に
洗面所をより広々と心地よい空間とするために、隣接するバスルームとのつながりを意識したプランも増えてきています。たとえば、バスタブや洗面ボウル、内装材の色や素材を揃えることで空間の一体化を図ったり、仕切り壁や出入り口ドアに透明ガラスを用いることで、開放的な空間とするプランも考えられるでしょう。
●非日常のデザインを取り入れる
シンプルですっきりとした都会的なデザインやナチュラルなリゾート感覚のプランなど、ホテルのサニタリー風の空間も注目されています。作り付けのカウンターを設けたり、ガラスや陶器の洗面ボウル、海外製の水栓金具などを組み合わせても。収納スペースを充実させて、生活感を抑えた空間とするのがポイントです。
「白」の空間がスキップフロアでダイナミックに繋がる光に満ちた住まい
[愛媛県 Yさま邸]
奥さまのご実家のある愛媛県に東京から居を移し、マンション生活を経てご自宅を新築されたYさま。大理石調フロアが美しい光沢を放つ住空間は白で統一され、天井高3m60㎝の広々としたリビングは気品高いホテルのラウンジのよう。一見飾り棚に見える扉は大収納空間「蔵」への入り口です。生活の中心となるダイニングキッチンは、「蔵」の上の1.5階に設け、スケルトン階段でつないでいます。
「ダイニングが吹き抜けになっている上、透明ガラスの壁からリビングに視線が伸びるので、開放的な気分で食事ができます。朝は東の窓から光が差し込んで気持ちがいいですし、半階高い位置にあるため外を歩く人と視線が合うこともありません。『蔵』にたっぷりと収納できるおかげで住空間がすっきりと保てるのもうれしいですね」と奥さま。
ワイドなカウンターのアイランドキッチンは、お料理好きの奥さまのこだわりをかなえたもの。続きにパントリーを兼ねた広い家事室も設けられています。一方、移住を機にフリーランスとなって活躍されているYさまは、吹き抜けに面した2階に仕事部屋をつくり、快適なSOHO生活をスタートされました。
「東京時代は働きづめで、夜も外食続きでしたが、今は三食とも自宅で手料理を食べるようになり、身体の調子も良くなりました」とご主人。
ご夫妻ともワインの愛好家で、数年前に揃ってワインエキスパートの資格も取得されたそう。「週末は二人でワインを飲みながら、ゆっくりと食事を味わい、会話を楽しんでいます」と幸せの笑顔が広がりました。
雨傘も日傘も好きな現代日本。梅雨〜夏に大活躍する傘の意外な歴史とは?
昔はレインコートが雨具の主役だった!?
梅雨の時期に手放せないのが傘。今でこそ「雨具」といえば真っ先に傘をイメージしますが、昔の傘は雨具としてよりも、日除けや権力の象徴、あるいはファッションアイテムとしての役割のほうがメインだったとか。昔の庶民の雨具としては、今でいうレインコートにあたるものがメジャーだったようです。そんな傘と雨具の歴史についてご紹介します。
権威・権力の象徴としての傘
傘が歴史に登場するのは4000年ほど前といわれています。古代エジプトやアッシリアの彫刻や壁画では、王や王族と思しき貴人が従者に日傘を差し掲げられている構図がよく見られ、傘が権力の象徴であったことがうかがえます。
古代ギリシャやローマの時代になると、日傘とともに雨傘の記述がたびたび見られるようになり、また、傘が王侯貴族のものから一般に普及した様子が見てとれます。とはいっても、傘は"貴婦人"のものであり、傘を差し掲げるのは使用人などの役目で、やはり一定の権威の象徴、あるいは贅沢品だったようです。
日傘&女性用の歴史が長い洋傘
私たちが現在使っている傘は、洋傘と呼ばれるヨーロッパ発祥の傘です。ヨーロッパにおける傘は、贅沢品であり富と権力の象徴であるとともに、どちらかといえば雨傘より日傘、男性より女性が持つものでした。雨をしのぐのは、おもに外套や帽子の役目だったのです。
傘が男性も使う雨具として広まったのは18世紀後半以降のこと。イギリスの旅行家ジョナス・ハンウェーが、ペルシャ旅行で見かけた雨傘に感激し、防水加工を施した傘を差してロンドンの町を歩いたことに始まります。最初は変人扱いしていた周囲も、30年間見続けるうちに抵抗がなくなり、やがて持ち手などをステッキに似せた傘が開発されると、一気に普及しました。
「かさ」といえば「傘」でなく「笠」だった日本
明治時代以降は日本でも洋傘が普及しましたが、それまでは和傘と呼ばれる伝統的な傘が使われていました。
日本の傘は、飛鳥時代に百済から伝わった「きぬがさ(絹を張った長柄のかさ)」が始まりとされています。平安時代には竹のフレームに和紙を貼った傘が生まれ、室町時代には和紙に油を塗って雨具としても用いられるようになりました。ただ、やはりまだ一部の特権階級のものであり、実用的に普及したのは江戸時代中期以降といわれています。
それまで庶民の雨具といえば、菅笠(すげがさ)や蓑(みの)。「かさ」といえば、柄(え)のない被り物の「笠」でした。ところが今の日本は雨傘も日傘も使用率が高く、一方、ヨーロッパなどでは日傘はおろか雨傘もあまり使用しないのだとか。不思議なものですね。
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