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子どもに安全な住空間とは?産業技術総合研究所西田佳史

子どもが大きなケガをしないよう、親として住まいの安全には気を遣いたいもの。どんなところに思わぬ危険が潜んでいるのだろうか。子育て住宅の調査から見えてきた実態と対策を西田佳史さんに伺った。

リビングに置くモノが子どものケガの原因に

 子どもの傷害の原因は普通の日常生活の中に潜んでいる。ふだん便利に使っている製品や道具、何気ない住空間が、ときに凶器と化してしまうのだ。こうした問題を解決していくためにミサワホームでは、キッズデザイン製品開発支援事業(経済産業省)による「子育て住宅調査」を、西田佳史さんが所属する産業技術総合研究所と共同で行っている。
「インターネットや家庭訪問で居住空間における子どもの事故や、危険な事例(ヒヤリハット)、家電製品を使うときの不安、住環境・間取りの不満などを聞き出しました」と西田さん。この調査から何が見えてきたのだろうか。

 家庭内で事故が起きた場所の1位は、意外にもキッチンではなくリビングで、約4割を占めた。家族全員が長時間を過ごすリビングには家具、小物、玩具、食品など、ぶつかる、つまずく、誤飲するといった事故の要因になり得るいろんなものが散在しているからだ。
「リビングに上手にしまえる場所がないから、あちこちに置かざるを得ず、それがケガを招いています。収納を充実させれば、かなり防げると思います」と西田さん。
 家具の配置にも気をつけたい。実際に死亡事故が起きている例として、西田さんが注意を促すのが窓まわりである。
「窓の前にソファやテーブルなど子どもの足がかりになるようなものを置かないようにしてください。子どもがよじ登って、窓から転落する事故が相次いでいます」。

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ヒヤリハット
目を離しても大丈夫な環境をつくることが大事

 続いて事故が多いのは、やはりキッチン。包丁や熱い鍋、コンロの火など、子どもに危険なアイテムがいっぱいある。まず、乳幼児はベビーフェンスなどで防いでキッチンに入れないことが基本対策だが、そのうえで事故の原因となるものはなるべく手の届かないところに置く工夫をしたい。
「つい見過ごしがちですが、炊飯器から出る蒸気を触ったり、のぞき込んだりして子どもが火傷をする事故がけっこう多く、皮膚移植が必要な大火傷も起きています。
炊飯器は高い位置に置き、熱い鍋ややかんは、小さな子どもが手を伸ばしても届かない30㎝奥(80㎝の高さのキッチンの場合)に置くようにしてほしいですね」

 また、見通しの良い対面キッチンは子どもの様子を見守れて安心だが、過信は禁物だという。
「見守りで事故が防げるかというと、実は難しいのです。たとえば子どもが転倒するのにかかる時間は0.5秒程度です。それに気づいて人が反応するのに0.2秒かかるので、転倒を防ぐには残りの0.3秒で子どものいる場所に駆けつけなければなりません。わずか1メートルの距離でも、時速20キロの速度が必要になりますから、現実には不可能です」と西田さん。
 子どもの事故を防ぐには、目を離さないことよりも、むしろ目を離しても大丈夫といえる環境をつくることが大事になる。

 恐いのがお風呂の事故だ。1〜2歳で多く、浴槽での溺死など大きな事故につながりやすい。
「今の浴槽は高齢者がまたぎやすいように、縁の立ち上がりが45㎝以下と低くなっています。ところがこの年齢の幼児は相対的に頭が大きく、重心の位置は床から40〜50㎝ほどと高いので、これだと転落しやすいのです」
 子どもが2歳までの間は、必ず残り湯を抜くことにするのが一番だが、大人と一緒に入浴していながらふとした隙に溺れるケースも多い。「縁を少し高くするだけで、転落は防げる」と西田さんはアドバイスする。

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ヒヤリハット
安全な住空間でこそ、子どもはアクティブに育つ

 さて、事故予防対策を万全にすると子どもの危険回避能力が育たないのではと危惧する方もいるだろうが、それは大きな誤解だと西田さんは明言する。
「むしろ逆で、対策をしない無防備な環境だと事故を防ぐためには子どもの行動を制限するしかありません。転んで痛い思いをしても、落ちて多少のケガをしても、大きな事故につながらない。そんな環境があってこそ、子どもは自由に動けて元気に育つのです。また、親も無用に叱らなくてすみますから、ストレスが減って心にゆとりが生まれます」
 よじ登る、飛び降りる、手を伸ばす、飛び出す、ぶら下がる、入り込む...。大人がいくら注意していても、子どもはその隙を狙うように思いがけない行動をするものだ。そんな子どもの危険に満ちた行動を頭から禁止するのではなく、好奇心、探究心のおもむくままにアクティブに遊ばせて、健やかに育てるためにも、住空間の安全対策をしっかりと施したい。

西田佳史(にしだ・よしふみ)

1998年東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。通産省(現:経済産業省)工業技術院電子技術総合研究所に入所し、改組により産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究ラボの研究員に。現在、デジタルヒューマン工学研究センター首席研究員。人間の日常生活行動の観察技術とモデリング技術、傷害予防工学、キッズデザインの研究に従事。2012年情報処理学会論文賞、2012年ヒューマンインタフェース学会学術奨励賞、2011年 日本人間工学会大島賞。子どもの事故防止に関する工学アプローチの実践的研究を通じ、安全知識循環型社会の実現を目指している。

  • 連載「住まいとお金」ファイナンシャルプランナー 久谷真理子
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