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子どもの「自律」に個室はどんな役割を果たす?環境心理学者北浦かほる

子どもの感性や自立を養うために、子ども部屋にはどんな機能が求められるのだろうか。世界の子ども部屋の比較を通して、子どもに個室を与えることの意味を研究してきた北浦かほる先生にお話を伺った。

悲しい時、腹が立つ時、一人で籠もれる空間を

 日本では家族のコミュニケーションを重要視するあまり、ともすれば「子どもが一人になる時間をなるべく作らない」のが良い家庭のあり方だと思いがちだ。しかし北浦教授は「子どもの精神面での発達において、一人になって考える時間を持つのは、実はとても大切なことなんです」と語る。
 私たちは子ども部屋=勉強部屋と考えているため、「子ども部屋を与える適齢期は?」などと頭を悩ませるが、欧米では子ども部屋=寝室であり、経済的に可能なら生後すぐにでも個室を与えるというのが親の共通認識だ。つまり、生まれた時から自律に向けて子育てをしていくわけである。そして子どもが悪いことをした時は、罰として子どもを寝室に閉じこめる。自由を束縛して一人で落ち着いて反省させるためである。

 また日本の場合、子どもの様子が見えることに親が精神的な安定感を持つことから個室を問題視する傾向も見られるが、北浦教授はそれをきっぱりと否定する。
「むしろ悲しい時や腹が立った時にひとりで閉じこもれないような空間なら、子ども部屋を創る意味はないと思います。よく気配の感じられる子ども部屋にすべきだとか、個室が閉じこもりを招くとか言われますが、問題が起きるのは個室のせいではなく、家族のあり方の問題です。いくら居間の大テーブルに集まっていても、子どもと積極的に向き合わないとコミュニケーションは成立しません」

自分だけの居場所を得て、自我と協調性を獲得する

 5歳から青年期までのプライバシー意識の発達を研究している米国の環境心理学者のM・ウルフによると、子どもは自分のプライベートな空間をコントロールする経験をしてはじめて、社会での他者とのかかわりにおいて自分を守り、かつ他者を認めることができるようになるという。「自分だけの居場所を得ることで、自我と協調性を獲得していく。つまり子ども部屋が自律を育む場所になるわけです」と北浦教授は語る。
 では、具体的には子ども部屋はどんな役割を持ち、そこからどんな効果が生まれるのだろうか。一つ目には、子どもがいろんなことを考えたり、空想する場所としての役割がある。何かを見て一人でイメージをふくらませたり、空想することで子どもの発想が広がり、自我が芽生えていく。

 二つ目は、入ってくる人を選ぶ、大切なものをしまうといった役割だ。「幼い子どもにも大切なものをしまったり、自分の意志で他人の侵入を拒むことができる個の空間が必要だとする考え方です」  三つ目は冒頭で紹介したように、叱られた時や腹が立った時に一人になって心を落ち着ける場所としての機能。そして四つ目が着替える、寝る、勉強する、電話する、日記・手紙を書くなど、人に聞かれたり見られたりしたくない行為をする空間としての役割である。
「大切なのは部屋の広さや装備ではなく、子ども部屋を子どもの居場所として位置づけることです。極端な話をすれば、押入れ一つ分あれば、こうした機能は十分に充たせます。上段と下段で二人分の子どもの寝室ができるのですから」と北浦教授は語る。
 また、欧米では子どもの自律には親への信頼が欠かせないとされ、信頼感を醸成するために寝室で子どもが寝付くまで親が絵本を読み聞かせる習慣が定着している。「一人で寝る」というのは幼児にとっては恐くて心細い体験だが、寝る前に親とふれあうことで強い絆を感じ、安心して乗り越えているのである。

欧米の絵本に見る、子ども部屋のあり方

 北浦教授は世界の絵本の中から住まいの状況が描かれているものに着目し、500冊以上ピックアップして内容を分析したという。その結果、絵本にみる幼児の寝室が、欧米では「自律とコミュニケーションを育む場」として描かれているのがわかった。たとえば叱られて寝室に閉じこめられて夢を見ていた子が、お母さんの運んでくれた夕食の匂いで目覚める『かいじゅうたちのいるところ』、弱虫で自室に閉じこもっていたエリックがナイトシミーに助けられて元気になる『ナイトシミー』など、幼児にも自分を見つめる必要性が物語に示唆されている。

 一方、日本では絵本に幼児の寝室は見られず、ダンボールで作った自分の家に友だちを招く『わたしのおうち』をはじめ、個室はすべてみんなで仲良く遊ぶための空間として描かれているという。
 日本の文化では自己主張のための子育てはされず、協調性を養うことが重視され、人とうまくやっていくことに目が向けられがちだ。それはこのように子ども部屋のあり方にも現れている。
「自己主張のできる欧米型と協調性に富んだ日本型、どちらがいいというわけではありません。ただし、これからの子どもは精神的に逞しく自律していかないと国際社会で生き抜いていけないのも事実。大切なのは養育姿勢です。まず、我が家はどんな子どもに育てたいのかを明確にし、そこから子ども部屋に求める役割を考えるといいのではないでしょうか」

北浦かほる(きたうら・かほる)

帝塚山大学教授。大阪市立大学名誉教授。学術博士。専門分野は居住空間学・環境心理学。空間が子ども特に幼児に与える影響に興味があり、環境心理学的視点から子どもと空間の関係を捉えてきた。著者に『世界の子どもの部屋』(井上書院)など多数。世界各国の夜間保育園の保育環境整備の研究や、住まいの絵本に見る日本と欧米の住の思潮の違いなど、子どもの空間と住文化の関係に興味をもつ。

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