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ランドスケープデザインに「庭屋一如」の美学を見るランドスケープデザイナー宮城俊作

京都宇治の平等院に生まれ、ランドスケープデザインの第一人者として、世界的に活躍する宮城俊作さん。宇治のアトリエを拝見すると、視界をコントロールして価値ある眺めを生み出す仕掛けが巧みに施されていた。

「触景」を採り入れて、五感に響く空間づくりを

 宮城俊作さんは、ザ・ペニンシュラ東京やザ・キャピトルホテル東急など、ホテルのデザインにもかかわったランドスケープデザイナーの第一人者。京都の宇治川のほとりに建つ世界遺産、平等院にある塔頭の最勝院のご子息として生まれ育ち、現在もお住まいになっている。  平安時代に浄土教の極楽浄土をこの世に現そうと造られた平等院。その贅を尽くした広大な庭園が毎日の遊び場だったという宮城さんは、幼い頃から大の植物好きで、庭園に出入りする植木職人の後をいつも付いてまわっていた。樹木が剪定される様子をいつまでも飽きずに眺め、いつしか数百種にも上る植物の名前を覚えていたという。そんな生い立ちは、宮城さんのランドスケープデザインの仕事にどんな影響を与えたのだろうか。
「実は最近まで和をあえて意識しないでデザインしてきたんです。和の伝統美をあからさまに出すのは、なにかわざとらしい気がしたものですから。それでも私の根底に日本的な感性は宿っているでしょうから、おのずとどこかに滲み出るものです。たとえば日本庭園は、遠景・中景・近景の重なりに加えて、『触景』も大切な構成要素になっています。これは素材の触感だけでなく、苔を見て湿り気を感じたり、砂利の上を歩く音を聞いたりといった五感で感じる心地よさのことで、日本人なら誰しも馴染みのあるものですが、私もこうした『触景』の魅力を空間づくりに活かしています」
 それはザ・ペニンシュラ東京のエントランスにもうかがえた。車回しの中央では、庵治石を組み合わせた床をたたく噴水がゲストを迎え、涼やかな水音で包み込む。
「ホテルでは『センス・オブ・アライバル』と言って、訪れた人が最初に車を降りて玄関に入るとき、どういう印象をもつかが施設そのものの評価を大きく左右します。ですから建築家とのコラボレーションによって、そこをどのようにデザインするかが非常に重要なのです。住まいづくりにも同じことが言えるのではないでしょうか」

南禅寺別荘群の建築に「引き算の美学」を見る

東側の窓の外に広がるの伽藍の屋根や美しい山並み。手前の墓地の塀はシラカシの生け垣で見えない。樹木の高さを調節して目障りなものを隠す「引き算のデザイン」である。

 ただし、ホテルにしろ、住まいにしろ、外側のデザインはつくれても、風景はつくれないと宮城さんは言う。風景は現れてくるもの。そのきっかけをつくったり、より感じやすくする仕掛けを施すのがランドスケープデザインなのだと。
「自分の手の届かないところの風景をどう扱うか。私はよく『引き算のデザイン』と言うのですが、何かひとつを除けたとたんに、パッと見えてくる美しさがあります。あるいは具合の悪いものを隠すことで、その背後にある風景が引き立ってくる。すでに存在している風景と建築物との間に新しい関係をつくるのがこの仕事の妙味と言えばいいでしょうか」
 京都には家屋と庭が一体となって絶妙の調和を見せる「庭屋一如」の名建築が多いが、なかでも遠くの風景を庭園にうまく採り入れているのが、明治から大正時代にかけて政財界の著名人を魅了した南禅寺界隈の別荘群だ。
「東山を借景に取り込んだ見事な景観ですが、実は庭を眺めたとき、間にある目障りな建築物が見えないように、樹木の高さを調節して隠しているのです」

環境を資産としてとらえ創造したアトリエ

平等院の裏手に建つ宮城さんのアトリエ(建築設計/長坂大氏)。冬にはクマザサが黄色みを帯び、秋にはヤマザクラも紅葉するなど、四季折々の眺めが楽しめる。

 視界をコントロールして周辺の環境をうまく活かすこうした手法は、現代の住まいづくりにも応用できる。そのお手本ともいえるのが、平等院の裏手にある宮城さんのアトリエだ。そこには果たしてどんな工夫が施されているのか、見てみることにしよう。
 外観は南北に長いシンプルな平屋の建物で、地面から少し浮かせた設計になっている。「床を上げた理由は、すぐ東隣に墓地があるので、それよりも高いところに目線をもってきたかったからです」と宮城さん。

玄関の踏み石と切り石のアプローチ。どちらも元は平等院の境内にあった石で、切り石は鳳凰堂の雨落ちを止める葛石だったという。

 踏み石の玄関から木戸を開けて屋内に入れば、そこはミーティングルーム。テーブルに座って、ふと顔を上げると、細長い窓の外に平等院の鳳凰堂の屋根、さらに宇治川の対岸に連なる山々の稜線が美しく広がる。すぐ隣の墓地の塀はシラカシの生け垣でうまく隠され、全く存在を感じさせない。

西側に向けて切られた地窓。桟橋のように走るデッキも庭の構成要素。

 一方、アプローチのある西側には地窓が開いていて、面状に植えられたクマザサの原に3本のヤマザクラが立つ風景が枠で切り取られ、一幅の絵のように見える。午後になると窓から西日が射し、床にヤマザクラの影を描くという。このヤマザクラは、通りから建物をあからさまに見せない「障り」の役割も果たしている。
「大切なのは、その場所に潜在している環境の価値を読み取ること」だと語る宮城さん。環境を資産としてとらえてデザインすることで、思いがけない豊かな空間が生み出せるのである。  逆に考えると、新たな家を建てるということは、その土地の環境を変えることにもつながる。できることなら向こう三軒両隣を含めて、ランドスケープ的な視点から庭や外側の風景を考え、街並みのなかで価値ある資産となるような住まいづくりがしたいものだ。

宮城俊作(みやぎ・しゅんさく )

ランドスケープデザイナー。京都大学大学院博士前期課程修了、ハーバード大学デザイン学部大学院修了。米国内の設計事務所勤務を経て帰国。千葉大学助教授を経て、現在、奈良女子大学住環境学科教授。設計組織 PLACEMEDIA パートナー。

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