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広々快適にくつろぐ工夫に満ちた究極の「狭小邸宅」クルーザーデザイナー薄 雅弘

海の上を走りながら、贅沢な気分でゆったりとくつろぎの時間を楽しめるサロン・クルーザー。限りあるスペースに上質の居住空間を創り出す薄 雅弘さんのデザインには、視線の広がりと心地よさを生むヒントがいっぱい!

サロン・クルーザーは洋上のコンドミニアム

シャチを思わせる流麗なボディの後部にあるアフトデッキから船室に入ると、そこには6〜7人がくつろげる本革シートを備えたリビングが広がっていた。約8畳大のスペースに操縦席、キッチン、シャワールーム&トイレまでもが配置されているにも関わらず、窮屈さを全く感じさせない。まさに「洋上のコンドミニアム」である。
限りあるスペースをいかにデザインして、ゆったりと快適に過ごせるラグジュアリーな空間に仕立てるか。サロン・クルーザーは、いわばその大命題をクリアした究極の形と言えるだろう。

このクルーザーをデザインしたのは、薄 雅弘さん。ヤマハ発動機株式会社で25年のキャリアを持つボートデザインの第一人者だ。船とはいえ、ソファの座り心地からキッチンの使い勝手まで、オーナーから求められる機能や美しさは住まいと同じレベル。IHクッキングヒーターは2口、電子レンジ、温水器、エアコンはもはや当然の設備である。高価なものだけに、洗練されたインテリアや素材の本物感、上質のくつろぎと空間のゆとりも欠かせない。こうした難しい課題を薄さんはどんな風にクリアしたのだろうか。
「このクルーザーの場合は、壁面や建具に鏡面加工を施した黒檀の銘木をあしらい、横目の木目柄で水平ラインを強調することで視線の広がりを演出しています。キッチンなど目に入る設備は同じ黒檀の扉で高級家具のように見せてすっきりと統一させました」

茶室の知恵を取り入れて、寝室に視覚的な広がりを

船の前部に設けた主寝室もひとひねり。入口を狭くして奥に行くほど幅広く、天井高くする遠近法で開放感を生んでいる。
「実はこれ、茶室のにじり口から得た発想なんです」と薄さん。
狭い空間を上手に間取って端正で居心地のいい住まいを創り出す日本古来の知恵や美意識を、クルーザーにもさりげなく取り入れているのである。また、壁の一部をミラー貼りにすることでも、視覚的な広がり効果を出している。
照明にも目を向けてみよう。
「最近はクルーザーもLED照明がトレンドです。ただしLEDの光は冷たくなりがちなので、白い色に負けないよう暖色系のインテリアコーディネートをしたり、電球色に近い暖かみのある色を選んだりすることが多いですね」
天井のFRPがパール素材入りのホワイトで塗装されているのも見どころだ。ダウンライトの光が当たると反射で拡散し、明るさと広がりが生まれる仕掛けである。また、ラウンジシートの下にはテープライトを組み込むなど、間接照明のあしらいも優美である。

船の設計者と二人三脚で、理想の空間を創っていく

サロン・クルーザーの設計デザインでむずかしいのは、海の上を走る乗り物としての性能と、「邸宅」としての心地よい居住性を両立させることだ。
「船は自動車やモーターサイクルのデザインとアプローチが全く異なります。自動車やモーターサイクルの構造は内骨格で、外装は風を防ぐなどの役割はあっても、主機能を有していませんから、そこでデコレーションができます。でも、船の場合は外骨格で、いわば昆虫と一緒なんです。ボディがない限り、浮かぶことも進むこともできません。走るという性能を外骨格でしっかりと実現しつつ、内部を快適なサロンに創り上げていかなければなりませんから、まさに船の設計者と二人三脚の仕事になります」と薄さんは語る。

たとえば海の眺めと開放感を楽しむために窓が重要な役割を果たすのは住まいと同様だが、船は波を乗り越えて着水したとき、最大で自重の20倍の荷重がかかるため、普通の窓では耐えきれず、壊れてしまう。そのため構造解析をして強化ガラスを使い、補強材で固定しつつ、思い通りの広い視界をデザインしていく。
また、居住空間をデザインするとき、設計者がエンジンを据えたいと思う位置が、薄さんにとっては避けたい場所だったりすることもある。「もっと後ろに持っていけない?」、「いや、これ以上は無理かな」。そんなせめぎ合いはしょっちゅうのこと。エンジン音を防ぐために吸音材を入れ、壁の角を丸くして音が響かないようにするなど、コンビを組み、頭を突き合わせて対策を考え、どちらにとってもベストのレイアウトを生み出していくという。

サロン・クルーザーには、狭小・変形地での上手な家づくりのヒントがたくさん隠れている。たとえば色の使い方ひとつで、空間を広く見せられると薄さんは言う。
「一番低い床の部分を濃い色にして、そこからベージュ、ホワイトとグラデーションをつけるなど、足元から上にいくに従って明るい色にしていけば、実際よりも広さと高さを感じることができます。また、狭い部屋でも家具の高さを5センチ下げるだけで、空間は広く見えるものです」
これから家づくりをお考えの方は、頭の隅に残しておきたいワンポイント・アドバイスである。

薄 雅弘(うすき・まさひろ)

桑沢デザイン研究所プロダクトデザイン卒。1987年、ヤマハ発動機入社後60モデル以上もの数多くのボート&ヨットをデザイン。ヤマハ発動機退社後、現在は株式会社Markes 代表取締役。

  • 連載「住まいとお金」ファイナンシャルプランナー 久谷真理子
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