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住空間は人の心にどう影響する?環境心理学者小俣謙二

なぜ人は住まいを自分らしく個性化するのだろう。家はそこに住む人の心にどんな影響を及ぼすのだろう。人と家のつながりを環境心理学者の小俣謙二さんにお伺いした。

住まいはヒトの「なわばり」である

住まいはそこに暮らす人の性格や嗜好を反映する器だ。なぜ私たちは自分らしいデザインや間取りの家を建てて、お気に入りのインテリアで心地よく演出したいと思うのだろうか。小俣さんによると、こうした行為は動物のなわばり行動の一形態だという。

「動物にとって巣やなわばりは、外敵から身を守り、安全に休息し、そこで餌を食べたり、子どもを育てることができる大切な場所です。こうした役割は私たちが住まいに求める役割とも多々共通しています。ですから家はヒトのなわばりのようなものだと考えられるのではないでしょうか」
動物の場合は「ここは私の場所である」ということを表すために、匂いのような自分特有のものを付着させて自己主張をするが、それと同様に私たちは自分の嗜好と深く関わったモノを使って住まいを個性化することでなわばりを示しているのかもしれない。

自分らしい家づくりが心理的安定をもたらす

では環境心理学的に見て、こうした自己表現は住む人の心理にどんな影響を及ぼすのだろう。
「私が大学・短大生を対象に調査したところ、個室を自分らしくアレンジしている人ほど自分自身の価値観を身に付けており、何事も自己判断で行う傾向が強いことがわかりました。また、海外の大学の寮で、入学して半年の間に退学してしまった学生と、学業を続けている学生の部屋を見比べた調査では、好きなスポーツ選手やスターのポスターを貼ったり、家族や恋人の写真を飾ったりしている学生の方が退学をせず、学校生活にうまく適応できていました。このことからも住空間の個性化=自己表現は、住む人の自我の確立を助け、精神衛生に良い影響を及ぼすことがわかります」

 実際、一人でゆっくりと自分を振り返りたいようなとき、他人に邪魔されずに落ち着ける空間が家の中にあれば私たちは心がやすらぐ。また、絵画や調度品など自分の趣味や価値観を表すものを眺めながら暮らせば充足するし、自分の生き方や考え方を振り返るきっかけも与えてくれる。
小俣さんが主婦を対象に行った調査でも、結果は明快だった。
「家の中に自分らしさを表す場所があるか、自分の思い通りにできる場所があるか、他人に入られたくない場所があるかなど、なわばり空間の有無と情緒的安定性、心身症傾向、災害や犯罪への不安などの関係を調べてみました。すると、そうした場所を一つでも持っている主婦は、持っていない主婦に比べて情緒的に安定し、不安も少ないことがわかったのです」
家族のための存在から一個人に戻ってリラックスできることが精神的なゆとりを生み、心理的な健康をもたらすのだろう。

子ども部屋を持つことで自我の確立が促される

家族が集まる団らんの場と子ども部屋の関係にも目を向けてみたい。個室を与えるのは果たしていいことか、与えるのなら何歳頃がよいのか、どんな位置関係にすればコミュニケーションが保てるかなど、親の頭を悩ませるところである。子どもはいつ頃から自分の場所をほしがるようになるのだろうか。
 実は部屋とまではいかなくても、自分の空間をもちたい欲求は3歳頃からすでに見られる。玩具など自分の物を入れる場所を持ちたがるのだ。そして小学校5・6年生になると、約8割の子どもが自分専用の個室を欲しがり、さらに思春期を迎えた頃から、子どもは家族を含む他人が自分の部屋に侵入することを嫌がるようになる。

「こうなると子どもが自室で何を考え、どんなことをしているのかと不安を覚える方もいるでしょうが、過剰に心配する必要はありません。青年期に多少閉じこもり的な行為があったとしても、それは発達の一時期の現象であり、自已の確立に必要なことかもしれませんから。思春期は子どもから大人への転換期で、この時期にさまざまな課題を解決して成長していかなければなりません。そうしたとき一人になって思考・空想ができる場を持つことは、むしろ子どもの精神面での自立を助けると思います」

最近は家族のいるリビングを通って子ども部屋に行く間取りを重視する方もいるが、大切なのは「子どもが帰ってきた姿を見ることができる」という点で、通過は不可欠ではないと小俣さんは言う。親が子ども部屋を与える最大の理由は「落ち着いて勉強させたい」だろうが、子ども部屋の役割はそれだけではない。どんな位置にするかよりも、むしろ子ども部屋=勉強部屋という考え方から脱却して、思春期以降は親が子どものプライベートな空間をどれだけ尊重できるかの方が子育てにとって大切な視点なのかもしれない。
 家はそこでの暮らしの体験や抱いた感情が自我に結びつき、巣立ったあとも生涯、心の拠り所となる。我が家らしい自己表現に満ちた住まいで精神の安らぎを得て、子どもの自立心を育み、家族の歴史を健やかに紡ぎたいものだ。

小俣謙二(おまた・けんじ)

1953年神奈川県生まれ。1981年、名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。住環境心理学、犯罪心理学専攻。現在、駿河台大学心理学部教授・心理学部長。著書に『住まいとこころの健康-環境心理学からみた住み方の工夫-』(ブレーン出版、1997)、『犯罪と市民の心理学-犯罪リスクに社会はどうかかわるか』(編著:北大路書房)など。

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