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これからの時代に求められる「金融力」のある家移住・住みかえ支援機構大垣尚司

時代が大きく移り変わるなか、住宅を取り巻く環境はどのように変化しているのだろう。
そして今、どんな住まいをどのように手に入れるのが得策なのだろうか。
これからの時代に求められる住まいと取得方法について、住宅金融の第一人者にうかがった。

●将来への課題

── 価値観の多様化が進み、時代が大きく変わりつつある今、住まいや暮らし方についてはどんな変化が起こっているのでしょうか。
大垣 かつて家を買うことは、人生における「お約束」のひとつでした。30歳頃までに結婚して子どもができたらアパート・社宅を出て家を買うのが人生双六におけるお定まりの通過点だったのです。
これを支えたのは自分に対する「成長への期待」です。国税庁の給与統計をみると、1980年代前半に入社した新入社員時の収入は、家を買う30代の後半には3倍近くに増えています。終身雇用・年功序列の給与体系が維持されていたこともあって、家を安心して買うことができたのです。
しかし、今は違います。同じ統計で、1995年に社会人になった人をみると30代の後半になった時点の収入は約1.6倍にすぎません。最近はもっと悪化しているかもしれません。当然そこから先も以前のように楽観できません。

── 現在は、将来の見通しが立てにくい時代というわけですね。
大垣 そのことに拍車をかけているのが、長寿化と高齢化です。1940年代後半と比べ、日本人の平均寿命は約20年も延びています。女性は半数、男性は4分の1が90歳まで生きる時代になったのです。ところが、働いて収入を得る期間はそれほど延びていないわけですから、生涯支出が単純に20年分増えたことになります。なかでも特に問題となるのが住居費です。将来が見通せないからといって家を買わなければ、引退後も家賃がかかる。そもそも、60歳以上の人の入居を認めてくれる賃貸住宅が不足しているという問題もあります。
それでは家を買えばよいのかというと、そうでもありません。実は、国の住宅法制は家の標準的な耐用年数を一世代25年程度と想定しています。これは戦後まもない時期において平均的な日本人が家を買ってからの余命がだいたいその程度であったことを念頭においたものです。しかし、人生90年を前提にしますと、家の耐用年数は少なくともその倍の50年程度なくては困るということになります。
このように、今、家を買うことを考えていらっしゃる世代の人たちは、将来を見通せないなかで、家を買うことのリスクを意識せざるをえないにもかかわらず、老後に家を持たないことのリスクはむしろ増えているという、大変難しい状況に置かれています。

●優れた投資商品

── 家を買うことが当たり前という時代は終わっても、所有する意味はむしろ今の方が大きくなっているといえそうです。
大垣 そうですね。特に、金利が歴史的に低い現在に限っていえば、家を資産として購入することにはそれなりの経済合理性があります。
上部の表は、35歳で住宅ローンを借りて住宅を購入した人が90歳で亡くなった場合と、家を買わずに一生賃貸した場合とで、死亡時の財産状況を比較したものです。大雑把に言うと、持ち家派はローン金利が負担となる反面、老後の住居費が不要で最後は土地が残ります。一方、賃貸派は老後に家賃負担がかかる反面、引退までにより多くの金額を運用できます。細かい想定についていろいろな考え方があるので一概には言えませんが、現在のようにローン金利がきわめて低い一方で、金融資産の運用利回りが見込めないという環境ですと、持ち家派のほうが経済的に有利になるわけです。
実は、かつてのように、高いローン金利の下で同じ計算をすると、家を買わないほうがかなり有利ということになります。それでも家を買ったのは、たぶん地価上昇への期待があったということではないかと思います。これに対して、今は客観的には買ったほうが有利なのですが、将来不安からなかなか踏みきれない。逆に言えば、将来不安を払拭できる仕組みさえあれば、借入による住宅購入は、消費者が低金利の恩恵を資産形成に活用する最も確実な方法だと言うことができます。

●長寿命住宅

── 今は、家を購入したほうが将来的にも得策だということですね。
大垣 そうです。ただ、90歳まで生きるとなると、そこまで長持ちする家が必要です。多少高額でも、いわゆる100年住宅(認定長期優良住宅)を選んでおけば、安心なだけでなく、生涯コストも抑えられ、結局安くつく可能性が高いということができます。
それから、環境問題も家とは切り離せない課題のひとつです。日本の総CO2排出量のうち、住宅は実にその30%を占めています。すでに自動車メーカーは、ガソリン車から電気自動車へという過激な方針転換を余儀なくされているわけですが、その波は確実に住宅にもやって来ます。家の場合、CO2は新築時に最も多く排出されますので、何よりも長持ちさせることが最も効果的なのです。
── 環境問題にも、住宅が長寿命であることが重要なのですね。

●住まいにも金融力を

── 先ほど、将来不安を払拭できる仕組みさえあれば、借入による住宅購入は低金利の恩恵を資産形成に活用する最も確実な方法だと言われましたが、実際に、そういう仕組みはあるのでしょうか。
大垣 みなさんの人生に今後何が起こるかは誰にもわかりません。でも、もし土地と家の価値がローンの残高を常に上回っているなら、万が一のときは家を手放せばよいわけです。一方、一生同じ家に住み続けるとは限りませんから、住みかえたときは家が年金になるような仕組みがあると理想的です。ただ、家や土地がいつでも希望する価格で売れるとは限りません。そこで、優良な住宅の持つ「賃貸価値」を国の支援を得て保証すれば、住宅を安定的にお金に変える仕組みが提供できるのではないか。そういう考え方に立って10年前に設立されたのが、「移住・住みかえ支援機構(JTI)」です。
JTIは、マイホーム借上げ制度を通じて、シニア層の住みかえ支援をすると同時に、基本性能が高い長寿命住宅については、利用者の年齢を問わずいつでも一定金額以上で借り上げることを長期間保証する「かせるストック証明書」を通じて良質な住宅ストックを循環させることを推進しています。JTIの支払う家賃には国の基金による債務保証がなされていますので、かせるストック証明書の発行を受けた住宅は、将来住みかえたときには公的年金と似た役割を果たすことになります。
また、2017年10月からは、住宅ローン債務の履行をJTIが引き受けることで、万が一住宅ローンの返済が困難になった場合のセーフティネットを提供する「かeせるオプション証明書」の発行がスタートしました。
「かせるストック証明書」と「かeせるオプション証明書」は、家に「金融力」があることの証明書と言うことができます。

── 「リタイヤ後は自宅を賃貸することで家賃収入という「私的な年金」を得ることができる家。万が一のときは住宅ローンを返すこともできる家。家に利用する価値が生まれ、それが暮らしの資金になる。まさに家の金融力ですね。これからは、金融力があるかどうかが住宅取得の新しい決め手になるということでしょうか。
大垣 はい。長寿化が進み、将来の見通しが立てにくい時代において、良い家とは、単にハードとして優れているだけでなく、そのハードが持つ金融力が目に見えるかたちで保証されているというソフトが優れているものであることが不可欠です。言いかえれば、あたかも家の部材のひとつとして「金融力」を組み込んだ、ハード・ソフト一体のシステムとしての家を提供していくことが求められているわけです。
実は、ミサワホームは、こうした私どもの考えにいち早く共鳴され、先ほどお話した「かせるストック証明書」と「かeせるオプション証明書」の両方を日本で最初に取り入れた「ライフデザインシステム」を制度開始と同時に導入されました。この名前には、家を売ることは、買う方の人生に対してコミットすることだという企業としての矜持(きょうじ)がはっきりと現れていると思います。
家は人生最大の買い物です。どうか、ハードだけでなく、金融力とそこに込められたつくり手のコミットメントをよくみた上で、歴史的な低金利の恩恵を十二分に活用し長い人生に備えていただきたいと思います。
── 「金融力」のある家に期待が高まります。本日は、ありがとうございました。

大垣尚司 (おおがき・ひさし)

青山学院大学法科大学院教授/一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事 東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在職。2006年に「一般社団法人 移住・住みかえ支援機構」の代表理事に就任。日本モーゲージバンカー協議会代表理事、金融審議会専門委員、独立行政法人住宅金融支援機構評価委員等を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金-住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』など。

  • 連載「住まいとお金」ファイナンシャルプランナー 久谷真理子
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