Column│新しいライフスタイルのご提案や、子育て、オーナーさまのこだわりのお宅拝見、
著名人によるコラムなど、毎月厳選した住まいに関する情報をお届けいたします。

これからの住まいに求められるのは「環境」への配慮と「安全・安心」東京大学 未来ビジョン研究センター 教授髙村ゆかり

環境問題の深刻化が予想される将来に向けて、住まいに求められるものとは何か。
環境問題を研究されている東京大学の髙村ゆかり教授にお話をうかがった。

環境問題がもたらすリスク

── 環境問題が、私たちの暮らしに与えるリスクを教えていただけますか。

髙村 大きな台風による住宅の被害もそのひとつです。たとえば、2018年の西日本豪雨と台風21号。この2つの災害だけで、経済損失は2兆5千億円です。この年に日本の損害保険会社が支払った保険金の額は、東日本大震災の時よりも多かったそうです。こうした経済的な損害もさることながら、大切な人命を脅かすリスクがあることも忘れてはなりません。

── 暮らしを守るだけでなく、万が一の災害時にはいのちを守ること。そうした強さがこれからの住まいには必要なのですね。

髙村 加えて、災害発生後の暮らしを支えられるかどうかも大切です。大きな自然災害が発生すると、電気や水道といったインフラが長期にわたって停止することも予想されます。その状況下でも自宅で生活を継続できる性能も重要です。

レジリエンスを持つ住まいが必要

髙村 近年ではレジリエンス(強靭さ・回復力)というキーワードが注目を集めています。災害の発生時や発生後に、少なくとも安全に暮らしを継続できること。これからは、そんなレジリエンスを持つ住まいが必要といえるでしょう。

── 具体的にはどのような住まいなのでしょうか。

髙村 たとえばZEHですね。高断熱の構造体をベースに、省エネと創エネを組み合わせた環境性能にすぐれた住まいです。環境にやさしいゼロ・エネルギー住宅は、かつては一部の人だけが選択してきた住まいでした。けれど、太陽光発電システムのコストが下がり、住宅メーカーの努力もあって、今ではより多くの人たちが選択できる住まいになっています。

── ZEHを選択することは、環境問題への貢献にもなりますね。

髙村 住宅は、一度建てれば50年もの長い年月にわたって使い続けるもの。いわば50年先の社会にまで貢献できる選択になるわけです。環境問題のツケをお子さんやお孫さんの代に残さないための選択でもあります。子どもにとっては、ゼロ・エネルギー住宅で暮らすことは、環境意識が芽生えるきっかけにもなるでしょうね。

── 都市部の住宅密集地では、太陽光発電パネルを載せたくても、屋根面積の制約から理想どおりの発電量が得られず、導入を見送る方もいらっしゃるようです。

髙村 災害の停電時、スマートフォンの充電だけでもできれば、情報を得ることができますし、情報が多ければ行動の選択肢も広がります。何より、通信手段の確保は大きな安心感をもたらします。過去の大きな災害を通じて電力供給が止まる怖さを多くの方が知るようになった今、太陽光発電は、たとえ発電量が小さくてもあった方がいいと考える方が増えています。蓄電池があればなお安心ですね。

快適性や心地よさも大切

髙村 環境性能にすぐれた住まいは、健康にもプラスになります。室温を安定的に保ってくれる高断熱の住まいは、家の中の急激な温度の変化が原因となる「ヒートショック」による健康被害の防止にも役立ちます。

── 快適で心地よい住まいは、愛着も深まりそうです。

髙村 温暖化の影響は、残念ながら、お子さんやお孫さんの世代ではより深刻になると予想されています。日本は自然災害が多い国ですし、災害は起こりえるのだということを認識して準備しておくべきだと思います。住まいには、快適な生活の場を提供するという役割とともに、災害時などに自分たちのいのちを守る役割も求められます。万が一の事態にも耐えうる、家族を守れる家を選んでいただきたいですね。それは結果的に、自分たちだけでなく、地域や国、世界の環境問題の解決に貢献することにもなるのです。

ミサワホームは世界初の「ゼロ・エネルギー住宅」を発売

業界に先駆けて住宅のエネルギー技術への挑戦を続けてきたミサワホーム。1967年の創立年からわずか4年後には、省エネルギー技術の研究チームを発足し、1977年には「太陽エネルギー利用住宅」の開発にも着手。そして1980年にスタートしたのが「ゼロ・エネルギー住宅」の開発だった。当時は「省エネ」という言葉さえ浸透していなかった時代。「ゼロ・エネルギー」を掲げることは、世間から見れば無謀に等しい取り組みだった。そんな長年の挑戦が実を 結び、1998年には世界で初めてゼロ・エネルギー住宅の発売を実現。搭載されている「屋根材一体型太陽光発電システム」も、ミサワホームが独自に開発したものだ。

髙村ゆかり(たかむら・ゆかり)

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授
専門分野は、国際法学、環境法学。地球温暖化に関する国際法・政策、環境リスクと予防減速、環境条約の遵守手続き・制度などの国際環境法に関する諸問題を研究。環境省をはじめ、経済産業省、文部科学省など、さまざまな環境問題に関する諮問グループにて要職を務める。共編著に『地球温暖化交渉の行方』、『気候変動政策のダイナミズム』、『気候変動と国際協調』など。

コロナ禍による暮らしの変化と 住まいに求められるもの東京ガス都市生活研究所小泉貴子 / 木村康代

新型コロナウイルスの影響が、社会に大きな変化をもたらしている。
人々の意識や生活はどう変わり、これからの将来はどうなっていくのだろうか。
東京ガス都市生活研究所の研究員お二人にお話しを伺った。

暮らしの変化がストレスに

▲東京ガス都市生活研究所では、2020年4月24日~27日で、1都3県在住の男女1,200名を対象に、コロナ禍の暮らしの変化について調査を実施。約75%以上の人が変化を実感という結果に。

── 東京ガス都市生活研究所では、緊急事態宣言下の4月下旬、人々の暮らしの変化についての調査を実施したそうですね。

小泉  仕事や家事、子育て、入浴や睡眠などの日常生活、余暇の過ごし方などを中心にアンケートを取ったのですが、全体の約75%の方が変化を実感していると回答しています。ステイホームが求められ、人に会えない、遊びに行けないなどこれまで普通にできていた生活ができなくなったことにストレスを感じている方が多いですね。

── 具体的にはどのようなストレスなのでしょう。

小泉  年代・性別を問わず、多いのは運動不足によるものです。在宅ワークが必要になったのに自宅に仕事をする環境がないことも。既婚女性からは料理頻度が増えたことという回答も多かったですね。

▲「ストレスに感じていること」という質問に対して、全体の1位は「運動量が少ないこと」だったが、40代既婚女性では「料理頻度が増えたこと」が1位に。家事の負担が女性に偏っていることが見えてくる。

── 外出自粛で家での食事が増えたけれど、その負担が女性に偏ってしまっているのですね。

木村  既婚女性からは、一人になる時間や場所がないということも、ストレスとして挙がっています。どんなに仲のよい家族でも、やはり一人になって気持ちをリセットする時間が必要ですよね。けれど、家族みんなが協力して事態に立ち向かわなければいけないという状況から、一人になりたいという気持ちを持つことにすら罪悪感が生まれているのかもしれません。

小泉  家族が1階にいるときに、自分が2階にいるといった、ちょっとした距離があるだけでもストレスが和らいだりしますから、住環境も影響しそうですね。

▲調査結果から見えてくるのは、ストレス軽減には「ひとりになれる場所・時間を作る」ことが重要と考えながら、実際にはできていないという実情だ。解決には、家事や育児の分担など、家族の協力が必要だろう。

── 暮らしの変化を好ましくないと捉えている方が多いようですね

木村  ですが、自由な時間が長くなったことから、睡眠や入浴の時間などは、むしろ以前よりも取りやすい状況になりました。それをストレス解消の手段としている方も多いですね。

── 家の中でいかにストレスを解消できるか。ステイホームでは非常に重要ですね。

木村  料理時間の増加がストレスになっている一方で、アンケートではおいしいものを食べることがストレス解消の上位になっています。家族で一緒にお菓子作りや料理をするなど、暮らしの変化を楽しもうという姿も見られました。

変化を積極的に楽しむ姿勢も

── 工夫次第で、ストレスの原因が楽しさにもなるわけですね。

小泉  そのための試行錯誤を始めた方も多いです。家の中に仕事のネット環境を整えたり、新しい家具や室内で使える簡単な運動器具を購入したり。楽器などの趣味のモノも売れているようです。

── 一方で、ごみ処理施設に持ち込まれる粗大ごみの急増など、いわゆる断捨離も話題になりました。

木村  自分にとってネガティブなモノを手放して、ポジティブな気持ちになれるモノを手元に置きたいということでしょう。収納にしまう場合も、モノの数をある程度絞ったほうが、使いたいと思ったときに出しやすくなります。使い勝手をよくするためにも断捨離が必要だったのではないでしょうか。

小泉  モノを詰め込んだ収納は、中に何があるかさえ忘れてしまいがちです。しまったモノが見えるかどうかはすごく重要。使うことを目的にしないと、せっかくの収納が活かせなくなります。

── 家族が一緒になってゲームを楽しむために、リビングを片付けた人がいるという話も聞きました。

小泉  自分が一番楽しめることにスペースを割きたいということですよね。私たちの過去の調査では、2017年頃から仕事よりも余暇を大切にするという流れが明確になっています。家での暮らし方が以前にも増して重要になりつつあります。今回の事態は、それを一気に加速させたといえるでしょう。

── 増加する「おうち時間」が、快適になるのか、ストレスになるのか、住まいの役割は今後ますます重要になりそうです。

小泉貴子(こいずみ・たかこ)

東京ガス都市生活研究所 統括研究員 一級建築士
生活者行動・意識を基にした住宅空間、空間コンセプト提案に従事。
現在は、住まい、働き方、生活者に関する研究を担当。

木村康代(きむら・やすよ)

東京ガス都市生活研究所 研究員
2007年より東京ガス都市生活研究所にて生活者研究を担当。
主な研究テーマは、生活定点観測調査、都市生活研究所オリジナル世代区分『食・世代』など。

東京ガス都市生活研究所

東京ガスの社内シンクタンクとして1986年に発足。
「生活者にとって本当に価値がある暮らし」のための研究・調査や提言を行っている。

働き方が変わると暮らしが変わる 暮らしが変わると住まいが変わるテレワーク・コンサルタント田澤由利

コロナ禍による社会の急激な変化により、一斉に数多くの人が経験することになったテレワーク。
国のテレワーク推進事業のアドバイザーも務める専門家、田澤由利さんにテレワークが変える暮らしについてお話をうかがった。

テレワークに必要な環境とは

── 外出自粛といった社会の要請によって、テレワーク人口が増えています。なかには戸惑いを覚えている方もいらっしゃるようです。

田澤  本来、通勤を必要としないテレワークには家族との時間が増やせるといったメリットがあるのですが、ここ数カ月の急激な変化に、逆の現象も起きています。家族との時間が増えることがあまりハッピーとは思えず、家族とずっと顔を合わせ続けることでストレスを感じてしまうという状況です。在宅で仕事をする環境が整っていないままテレワークをせざるをえなくなり、家族の声が邪魔になって仕事がやりづらいと悩んだり、オンライン会議の画面に子どもが映り込んでしまったり、ご苦労されている方がたくさんいらっしゃるようです。

── 仕事の書類に触ろうとした子どもを、ついキツイ口調で叱ってしまったという話もあります。

田澤  家族とギクシャクする原因の一つは、部屋数と防音性ですね。テレワークではそれほど広い空間は必要ありません。最小限の空間さえあればよく、望ましいのは個室です。仕事の書類や道具を子どもが触れず、ドアを閉めればある程度の音も遮断されるという環境があれば、オンライン会議で家族の姿や声が入ってしまうこともありません。そうした仕事のための空間がないことが、多くのストレスを生んでいるのです。やむをえずリビングや寝室で仕事をするケースも多いようですし、スマートフォンを使ってクルマの中でオンライン会議をする方もいらっしゃいます。庭にテントを張って急ご しらえのオフィスとして使っている方がいるというニュースも見ました。

── 実際にはどんな悩みが多いのでしょう。

田澤  時間がルーズになったという悩みも聞きます。会社なら昼になるとみんなが席を立って食事に行きますが、自宅で仕事に没頭すると、気づけば食事を抜いてしまったということも。逆に上司や同僚の目がないために気持ちが緩んでしまうというケースもあります。

── テレワークでもオンとオフの切り替えはとても大事なのですね。

環境次第で数多くのメリットが

田澤  快適な仕事環境が整えられれば、テレワークはとても多くのメリットをもたらしてくれます。たとえば1日8時間働くとして、テレワークなら午後2時から3時までを子どもの幼稚園の送り迎えのために中抜けしても、夫が帰ってきた後にその1時間分の仕事をするという柔軟な働き方が可能です。従来なら午後2時までの時短勤務しかできなかった人が、フルタイムと同じ内容の働き方ができるわけです。他にも、地方に暮らしながら仕事ができるなど、今までは仕事のために諦めるしかなかったことを両立できるなど、数多くのメリットがありますね。

── 長い通勤時間から解放されて、自分のための時間が充実するのもメリットですね。テレワークは暮らし方を大きく変えるし、住まいにテレワークの環境が整っているかどうかで、享受できる恩恵に大きな差が出そうです。

田澤  2007年には国が「テレワーク人口倍増アクションプラン」を打ち出すなど、テレワークの重要性は長くいわれてきました。2016年の「働き方改革」から伸びたテレワーク露出度が、今年5月末時点で、前年の4倍になっています。少子高齢化などの課題を抱えている日本では、いかに働き手を確保できるかは切実な問題です。今回の事態が収束しても、 世の中のすべてがこれまで通りに戻ることは考えづらく、テレワークの普及がさらに加速することは間違いないでしょう。今までの一般的な住まいは、家で仕事をする前提ではつくられていませんでした。これからは、そうした面にも しっかり配慮した住まいが必要になるでしょうね。

田澤由利(たざわ・ゆり)

㈱テレワークマネジメント代表取締役/㈱ワイズスタッフ代表取締役
1962年、奈良県生まれ。会社員、フリーライターなどの経験を経て、1998年にワイズスタッフ、2008年にテレワークマネジメントを設立。企業等へのテレワーク導入支援や、国や自治体のテレワーク普及事業等を実施。内閣府の政策コメンテーターや総務省の地域情報化アドバイザーなども務める。平成28年度「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」など、多数の賞を受賞。

暮らしのなかに幸せがある ジオラマを通して描く生きる力ジオラマ作家山本高樹

ミニチュア模型で情景を表現する「ジオラマ」。
数々の作品をつくりだしている作家・山本高樹さんにジオラマ制作の舞台裏や徹底したこだわり、作品に込めた想いなどをお聞きした。

人間ドラマを凝縮した世界

昭和初期の賑わう銀座をジオラマに仕立てた「モダン都市銀座」。道行く人の服装や郵便ポストなど、小物の細部も忠実に再現。

2012年に放送されたNHKの連続テレビドラマ「梅ちゃん先生」。そのタイトルバックに使われたジオラマをご記憶の方は多いのではないだろうか。かつての建物を再現しただけでなく、当時の人々の生活感まで表現されたジオラマは、その時代を体験したことのない人までノスタルジックな気分にさせ、作品に入り込ませる不思議な魅力に満ちている。
「まさにそれが自分の描きたいものです。住まう、商う、暮らす、ときにはお酒を飲んで酔っ払ったり。そんな人間のドラマを凝縮させて注ぎ込むことで、ぼくのジオラマは完成するのです」と語る山本高樹さん。昭和の懐かしい風景と、そこでの人々の暮らしを、ミニチュアで表現し続けているジオラマ作家だ。

SF映画の特撮美術なども担当

昭和40年代の景色を描いた「あの日の駄菓子屋」。ショーケースに詰まった色とりどりのお菓子など、ノスタルジックな味わいが作品の隅々に。

「私がつくるジオラマは25分の1スケールですが、その理由も建物と人間の両方がつくり込めるちょうどよい大きさだからです。当時のディテールをしっかり再現できて、なおかつ人の豊かな表情を表現できるこの大きさは、自分の作品にはぴったりです」
ジオラマに配置する自動車や人形なども既製品は一切使わない。作品のすべてをカッターや定規などを使って手づくりする。唯一無二の世界観は、そんな徹底したこだわりがあるからこそだ。ちなみに25分の1というサイズは、実は「ウルトラマン」といった昔の特撮ドラマのミニチュアで採用されていた寸法だ。ジオラマ作家として活動する以前に、SF映画の特撮美術なども手がけていた山本さんにとって、そのサイズはとても親しみのあるものなのだろう。

工房でジオラマ製作中の山本さん。

「子どもの頃は特撮ドラマに夢中でした。おもちゃもたくさん売られていましたよね。仮面ライダーの変身ベルトや超合金のロボットとか。当時は今のようにモノがあふれた時代ではなかったし、身近な材料で工夫しながら自作して遊 んでいました。今にして思えば、簡単にモノを買ってもらえなかったことが、現在の仕事につながっているのかもしれません」
ジオラマ作家として独立する以前、映像美術制作会社で働いていた20代半ばの頃には、すでに失われ始めていた昭和の風景に強く惹かれていたという山本さん。
「城下町や街道沿いの宿場町など、日本全国の古い建物を見て回っていました。その頃から、いずれはこういう世界をミニチュアでつくりたいなと思っていました」

「気持ち」まで伝わる作品

作品用の建具のストック。わずか1㎜のホゾを切って部材を組み合わせるなど、驚くほどの精緻なつくりだ。

藁ぶき屋根の家や、蔵の残るまちなみといった日本各地の景色だけでなく、少年時代の身近な風景も作品を生む原動力になっている。「都内でもたくさん空き地が残っていましたよね。当時の子どもは、整えられた公園よりも、建築資材が無造作に積み上げられたような、そんな空き地が大好きでした。日が暮れるまで泥だらけになって遊んでいましたよね」
その「場所」だけを描くのではなく、その場所にいる人たちの「気持ち」まで伝わってくるジオラマ作品。山本さんならではの作品の個性は、そんな思い出の一つひとつを大切にしているからこそ生まれたものなのだろう。

屋根装飾や瓦などの小さな部品もすべて手づくり。自作のシリコン型に樹脂を流し込んで制作する。

「私の作品をすごく精密だとおっしゃってくださる方が多いのですが、実は設計図面のようなものは一切書きません。簡単なイメージスケッチを描いたら、後はどんな風にでき上がるか自分でもわからないうちにつくり始めます。つく っている間は悩みっぱなし。階段や部屋を加えるたびに、この空間はこんな風に使えたら面白いぞとか、こんなつくりなら自分もここに行ってみたくなるなとか、イメージを増殖させながら完成させていくのです」
そこでの暮らしや営み、楽しさや幸せを想像しながら建物をつくり上げていく。それは私たちの住まいづくりにも通じる大切なことかもしれない。

山本高樹(やまもと・たかき)

1964年千葉県生まれ。映像美術制作会社の社員として、映画、TV番組、CMの特撮美術や博物館の展示美術などの制作を手がけた後、2001年にジオラマ作家として独立、「昭和の心象風景シリーズ」の制作を開始。2012年にはNHKの朝の連続テレビ小説「梅ちゃん先生」のオープニングタイトルに使用されたジオラマで注目を集める。著書に『昭和幻風景―山本高樹ジオラマ作品集』(大日本絵画・刊)ほか。公式ホームページ『模型日和下駄』 (http://www.hiyori-geta.com/

家族の事情で決まる「建て時」 ゆとりある資金計画を冷静に判断ファイナンシャルプランナー深田晶恵

はじめて資金計画を立てようとする場合、意外と見落としがちなポイントが少なくない。
資金計画相談業務の豊富な経験を持つファイナンシャルプランナー深田晶恵さんにうかがった。

我が家の建て時とは?

── 住宅ローンの金利が史上最低水準と呼ばれるレベルを推移しています。絶好の「建て時」「買い時」という声も聞きますが、どうお考えになりますか?

深田  金利が低い今のうちにローンを組んで住まいを手に入れておこうというのは、一般的にはその通りだと思います。ですが、金利などの外部要因以上に、家族それぞれの「我が家の建て時」を重視することが大切です。たとえば、住まいを購入してもお子さんが転校せずに済むタイミング。あるいは、お子さんの人数が確定したとき。そうした家族ごとの事情が建て時を左右すると思います。

── お子さんの数によって必要な養育費も大きく変わりますから、将来にわたる資金計画を立てるうえでも大切な要素ですね。

深田  お子さんの話でいえば、最近は「保育園縛り」という問題もあります。これは私の造語ですが、都心に近い利便性のいいエリアで賃貸住まいをしている共働き夫婦が、マイホーム購入を検討するとき、ようやくお子さんが入れた保育園の権利を失いたくないため、そのエリアから離れられなくなってしまうことを意味します。

── 待機児童の問題が盛んに報道される昨今では、改めて探そうとしても入れる保育園がないという事態もありそうです。

深田  今の便利な住まいから数十分電車に乗った郊外にエリアを拡げると、物件価格が1千万円以上安い戸建てが見つかる可能性もあります。思い切って子育てに向いたエリアに移って住まいを探すという方法もありますよね。ですが、「保育園縛り」が理由で、その選択肢を選べないという方もいらっしゃいます。

── 他にも意外と気づかない注意点があれば教えていただけますか。

深田  たとえば、初めて住まいを手に入れようと考えた場合、同じ勤務先の同期社員がマイホームを購入したのを見て、自分も同じ金額の住まいを買っても大丈夫と考える方がいらっしゃいますが、その判断は危険です。同じ収入でも、年間に貯蓄できる金額は人によって違いますからね。

我が家の「お金の実力」を知る

深田  結婚と同時に住まいを購入する計画を立てる若い方もいらっしゃいますが、それもおすすめしません。結婚してから二人でいくら貯蓄ができたか。それが何年続いたか。そうした実績、いわば「我が家のお金の実力」を見極めて資 金計画を立てていただきたいですね。貯蓄をすることは、住宅ローンを返す練習にもなります。

── 「お金の実力」を理解して返済計画を立てる。その重要性は若い夫婦以外にも言えますね。

深田  返済額を決める目安の一つに「今の家賃並みの額」という考え方がよくいわれますが、実際に家賃並みに設定すると苦しくなります。住まいを所有すると固定資産税がかかり、その分だけ住宅費がオーバーしてしまうからです。年間の家賃額から固定資産税額を引いて、残った金額を12で割ったものが、今と同じ暮らしができる返済額です。とはいえ、持ち家になるのだから、もっとがんばるつもりだという方もいらっしゃいます。そのための貯蓄に励んでいた方なら、家賃並みプラス1万円〜2万円多くても返していけるというケースもあります。

── 判断するうえでも我が家の「お金の実力」を知っておきたいですね。

深田  予期せぬことが起こるのが人生です。たとえば勤務先の業績が急に悪化したり、思いがけずもう一人子どもを授かったりといった理由で、世帯収入が一時的にダウンする可能性もないとはいえません。不測の事態に備えるためにも、住宅ローンでリスクを取るべきではありません。住まいづくりは決断する場面がたくさんあります。どれだけ冷静になれるか、それが大切です。

深田晶恵(ふかた・あきえ)

ファイナンシャルプランナー。(株)生活設計塾クルー 取締役。個人向けコンサルティングなどを行う一方、国土交通省の「住宅ローン商品改善ワーキングチーム」をはじめとした数々の委員を歴任。著書に『住宅ロー ンはこうして借りなさい』ほか。

  • 連載「住まいとお金」ファイナンシャルプランナー 久谷真理子
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