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長寿社会の二世帯住宅住宅資産研究所倉田剛

税制改正による相続税の優遇措置もあって、「二世帯住宅」に関心が高まっている。具体的にはどんなメリットがあるのだろう。そして高齢化社会の「共住」はどう変わっていくのだろう。住宅資産研究所主宰の倉田剛さんにお伺いした。

強まる同居志向、資金面でもメリット大

人々が「絆」の大切さを見直すようになった今、家づくりにおいても親子二世帯の同居志向が強まっている。ひとつ屋根の下で子ども家族と暮らしていれば、老いていく親は何かと心強いし、子どもにとっても日頃から親の健康状態がわかるので、介護が必要になったときも早めに対応できる。子育ての面でも安心だ。昨今は夫婦共働きの家庭が多いが、親に子どもの面倒を見てもらえれば心置きなく働けて、保育所の待機児童問題などで悩むこともない。一方、親は孫の成長と向き合える喜びがあり、暮らしにメリハリも生まれる。孫にとっても、祖父母とのふれあいから得るものは貴重だろう。
「資金面で考えても二世帯住宅にするメリットは大きいですね。実家を建て替えれば土地代がかからず、土地から購入する場合も1軒分でいいから安くすみます。建築費用も別々に建てるより軽減できますから」と倉田剛さんは語る。

小規模宅地の特例が緩和、二世帯住宅が相続税対策に

さて、2013年度の税制改正で、2015年1月より相続税の基礎控除額が大幅に引き下げられ、路線価の高い都市部では相続税の負担が大きく増えると予想されている。一方で二世帯住宅の宅地相続については優遇特例の要件が緩和されたことから、今、有利な相続税対策としても二世帯住宅が関心を集めている。
優遇特例とは「小規模宅地等の特例」と呼ばれるもので、子が親と同居していた住宅の宅地を相続する場合、適用条件を満たせば一定の面積まで相続税の評価額が80%減額されるというもの。この適用面積が330㎡に引き上げられたのだ。
それだけではない。二世帯住宅といっても、玄関やキッチンや浴室を共有する「完全同居型」、玄関は1つで他は別々の「玄関共用型」、玄関からキッチン、浴室まですべて独立した「完全分離型」といったさまざまなタイプがある。これまで内部で行き来できない「完全分離型」の場合、同居とはみなされず、優遇特例が受けられなかった。「完全分離型」でも優遇特例の対象となり、二世帯住宅の設計を考える上で選択肢が広がったのだ。将来、親が亡くなって相続した場合、完全分離型で建築した二世帯住宅なら、親が使っていた居住部分を賃貸に転用して資産の有効活用を図ることもできるからうれしい。

民間リバースモーゲージで老後の経済的自立を実現

長寿命社会では高齢者の経済的自立が求められる。それを支援する仕組みとして、倉田さんが推奨するのが、持家を年金化する「リバースモーゲージ」だ。
「自分の家に住み続けながら、その家を担保に老後の生活資金を年金の形で借り入れ、死後に一括返済する仕組みで、欧米では古くから普及しています」
ただし、日本では認知度が低く、利用件数も少ないのが現実。厚生労働省の公的制度リバースモーゲージもあるが、生活困窮者を対象にした適用要件になっているため、この先も利用は限定的だろう。そこで倉田さんが新たに提唱するのが「個人型リバースモーゲージ」ともいうべき持ち家活用である。
「持ち家を相続財産とみなすのではなく、老後の家計を助ける経営財と考えるのです。具体的には、二世帯住宅を親子の共有名義で建てたら、きちんと契約を交わして親の持ち分を毎月割賦払いで子どもに買ってもらい、毎月収入を得ます。子どもは親からちゃんと購入したわけですから、兄弟間の不毛な相続争いも避けられます」

倉田さんは他人世帯との共住型リバースモーゲージも提案する。たとえば、今は離れて暮らす子ども家族と親が将来同居したい場合など、完全分離型の二世帯住宅を建てておいて、10年間の定期借家権で当面は他人家族に貸すといったプランだ。
「あるいは高齢者が境界壁を共有するテラスハウス型の二世帯住宅を他人と区分所有で建てる。生前に持ち分をその人に割賦払いで購入してもらい、死後に引き渡すといった契約も個人的なリバースモーゲージとして検討できます。フランスでは18世紀頃からこうした契約が老後の生活資金調達の自助的な手法として定着しています」
本格的な少子高齢化社会を迎えた日本。老後の居住福祉を考えるとき、今後は他人世帯との共住も積極的に視野に入れた方がいいと倉田さんは説く。血縁関係を超えて人と人が心豊かにつながり、支え合って暮らしていく。「二世帯住宅」という建て方には、そんな未来型の居住福祉を叶える可能性も秘められているといえるだろう。

倉田剛(くらた・つよし)

1944年生まれ。住宅資産研究所主宰。一級建築士・土地家屋調査士。法政大学経営学博士、愛知工業大学経営情報科学博士、日本大学法学修士。法政大学現代福祉学部・同校大学院非常勤講師。NPO法人リバースモーゲージ推進機構理事長。国際ジャーナリスト連盟会員。日本フリーランス・ジャーナリスト連盟会員。著書に『リバースモーゲージと住宅』(日本評論社)、『居住福祉をデザインする』(ミネルヴァ書房)、他

安心のシェアができる収入を生む家ファイナンシャルプランナー大竹のり子

賃貸併用住宅は家賃収入が得られるだけでなく、税制面でのメリットも大きい。ただし、忘れてはならないのが、借り手がつかない空室リスクだ。安定した賃貸経営を実現するためには、何に気をつければいい?

家が稼いでくれるのでローンの返済がグンと楽に

長寿国ニッポンで老後も末永く安心して暮らすには、どんな準備をしておけばいいのだろうか。期待できない公的年金、不透明な経済など、先行きに不安を感じる社会情勢のなか、解決策のひとつとして注目されているのが「収入型住宅」だ。住まいの一部を賃貸住宅や店舗にして、家賃収入を得る家づくりである。賃貸需要のあるエリアなら検討する価値は大きい。
そこで自宅を賃貸併用住宅に建て替えれば、具体的にどんなメリットが生まれるのかを、ファイナンシャルプランナーの大竹のり子さんに訊いてみた。
「まず、家賃収入をローンの返済に充てることができるので、負担が軽減できます。そして払い終われば、家賃がまるまる収入になりますから、老後の私的年金として役立てることができます。長い目でみて収入源を確保できるという観点で、検討する価値は高いでしょう」

会社員オーナーの所得税軽減もメリット

また賃貸併用住宅は、固定資産税や相続税など税制面のメリットも多い。特に会社員オーナーにとってうれしいのが、所得税の軽減だ。通常、会社員で給与所得しかない場合は、必要経費を計上することが認められていない。しかし、賃貸併用住宅から家賃収入を得ることによって、確定申告で必要経費が計上できるようになる。賃貸部分に相当するローンの利息や、建物・設備の減価償却費、さらに建物の固定資産税、賃貸の募集に係った費用、通信費などを、必要経費として税務上処理することができるのだ。

「ちなみに建物・設備の減価償却費は実際に支出を伴うわけではありませんが、大きな金額の必要経費と認められるのでお得です。年間の賃料収入からこうした必要経費を差し引いて、帳簿上、赤字になると、この赤字部分を給与所得と合算することができます。そうなると、赤字額に応じて所得税が軽減されるだけでなく、翌年の住民税も軽減されますから、節税効果は大きいですね」と大竹さん。

プライバシーや音にも配慮した設計プランに

もちろん、メリットばかりではない。一つ屋根の下に他人が暮らすとなると、やはり気遣いが必要になる。オーナーにしてみれば賃貸部分も含めて我が家だという意識だが、入居者はお金を払って住んでいる自分の城という意識だ。その意識のズレを理解して、プランを立てておきたい。
たとえば入居者の側にすれば、出入り口でオーナーとちょくちょく顔を合わせてしまうのが鬱陶しいこともあるだろう。建物のプランを考える段階で、自宅部分と賃貸部分の出入り口の方向を別々にするなど、アプローチの作り方を工夫しておけば、お互いに気兼ねなく暮らすことができる。

もうひとつ、気をつけたいのが生活音の問題だ。上下や隣からの騒音に悩まされると、オーナー家族の暮らしの快適さが損なわれてしまうだけでなく、入居者間のトラブルにもなりがちである。遮音性もしっかりと確保しておきたい住宅性能のひとつである。

立地条件を鑑みて採算性を十分検討しよう

賃貸併用住宅を建てるにあたって、最も忘れてはならないのが空室というリスクがあるということ。今は一昔前のように、どんな賃貸住宅でも「建てれば入る」という時代ではない。では、どのような点に留意すれば、空室を回避することができるのだろうか。
問われるのが敷地の立地条件だ。都市への通勤圏で、駅から徒歩圏内など、人が住みたくなるような場所であれば事業として成功する確率は高いが、もし立地に不利な点があるのなら、人気の設備を採り入れるなど、それを補う付加価値が必要になる。一度、自分が住んでいる土地のまわりにはどんな賃貸住宅が多いのかを観察し、住宅会社や近所の不動産会社に話を聞いてみたい。

「自宅の一部を利用するにしろ、賃貸経営を始めるわけですから、経営者意識を持って臨むことが大切です。特に将来、空室が続いたらどうするか、地震などの災害が起きてローンが返せなくなったときにはどうするかなど、万が一、想定通りにいかなくなった場合のシミュレーションも慎重に行っておくべきだと思います」と大竹さんは語る。
まずは住宅会社や不動産会社と連携して市場調査を行い、採算性を検討することから始めたい。

大竹のり子(おおたけ・のりこ)

1975年生まれ。編集者を経てファイナンシャルプランナーとして独立。女性による、女性のためのファイナンシャルプランニングサービスを実現したいとの想いから、2005年4月に株式会社エフピーウーマンを設立。現在、講演、執筆、テレビ・ラジオへの出演など多方面で活躍している。『一番やさしく株がわかる』(西東社)、『マネーセンスを磨けば、夢は必ずかなう!』(東洋経済新報社)などお金の分野での著書は30冊以上に及ぶ。日本FP協会会員、金融学習協会理事

街や自然とほどよくつながる住まいアーバンデザイナー猪狩 達夫

心地よい暮らしは、外とのつながりを抜きにしては考えられない。エクステリアの植栽計画にはどんな工夫が必要なのだろう。エクステリア&ガーデンアカデミー前学長の猪狩達夫さんにお話を伺った。

個人、家族、近隣、3つの小風景づくり

エクステリアデザインの目的は、①個人単位の小風景づくり、②家族単位の小風景づくり、③近隣単位の小風景づくりの3つに大きく分けられると猪狩達夫さんはいう。
「1つ目は、庭やバルコニーなど、個人と自然が対話できる空間づくり。植物を愛で、水やりや土いじりでやすらぐ『癒やしの景』です。窓辺に置く寄せ植えやハンギングバスケットもこれに入るでしょう。2つ目は、『団らんの景』。家族で屋外生活を楽しむスペースづくりです。みんなで菜園や花壇をつくったり、屋外パーティーなどミニイベントも開ける活動的なシーンですね。そして3つ目は、花と緑に彩られた街並みづくり。地域に根ざす『社会の景』です。家の前庭や花台・バルコニーを植栽や花鉢で飾り、隣人たちと共同で道路に面した生垣等を剪定管理することで、美しい街並みを創り出すことができます」。

常緑樹と落葉樹をバランス良く配置する

エクステリアをプランニングするときは、まずアプローチ、駐車場、門扉やフェンスなどの要素と住まいのつながりを考えて、機能的な動線を決めたい。ただし、アプローチは住まいの顔になり、街並みにも影響を与える存在なので、「路」としてとらえるだけでなく、潤い豊かな「空間」として演出することも大切だ。屋内の窓からどう見えるか、あるいは歩いてくる人の目にどう映るかなど、景色を意識して、アプローチを含めた庭づくりを進めたい。
「エクステリアに命を吹き込むのが植栽の緑ですが、ここで大事になるのが樹種の選定です。常緑樹ばかりを植えると暗さや圧迫感が生まれ、うっとうしくなりがちですし、かといって落葉樹だけだと冬は葉が落ちて寂しい風景になってしまいますから、バランス良く配置したいですね。花や実が楽しめる樹種を植えると、より豊かな表情になって楽しいですよ」

猪狩さんは「マイ・アウテリア」と称し、パーゴラ、デッキ、テラスなどを使った自然浴や団らんが楽しめるスペースづくりを提唱している。住宅まわりの空き空間を活用して、「瞑想空間」「夫婦の対話空間」「ミニパーティースペース」など、自分たちのライフスタイルに合ったスペースを創り出そうという提案だ。
「庭にウッドデッキやテラスを設ける場合は、どんな使い方がしたいのか、具体的なシーンを思い浮かべて計画すれば失敗がありません。たとえばバーベキューを楽しむなら、緑陰や日除けはどうしようか、何人集まるのか、テーブルからの眺めはどうか、水場は必要か...というふうに課題を明確にしていくのです」
また、隣地や道路との境界に塀をつくるときは、高さに気をつけたい。高いほど防犯に効果的だと考えがちだが、実はそうではない。いったん侵入されてしまうと外部から中が全く見えなくなるため、かえって逆効果になりかねない。透過性のあるフェンスや生け垣で、乗り越えにくい程度の高さにするのがおすすめだ。

壁面を上手に活用すれば、狭くても豊かな緑化が叶う

植物は温度が上がれば葉から水分を蒸発させ、気化熱によって周囲の温度を下げる働きがある。従って庭に樹木を植えたり、屋上緑化をすることによって冷暖房エネルギーが節約でき、都市のヒートアイランド現象の緩和にも役立つ。地表を低く覆う性質を持つササやシバなどの地被植物を植えるのも緑化に効果的だ。
また、落葉樹を窓の近くに植えれば、夏場は繁った葉で強い陽射しや放射熱の室内への侵入を防ぐことができ、冬場は落葉して暖かな陽だまりを室内に取り込めるので、エアコンだけに頼ることなく快適に暮らせる。

ただ、ゆとりのない植栽スペースに無理をして植物を植えても、環境が整わず立ち枯れさせてしまう恐れもある。そんな場合は、壁面を活用すると効果的だ。フェンスやブロック塀にツタなどのツル性植物を絡ませてもいい。
「壁から離してワイヤーメッシュを張り、緑化植物を這わせれば、小さな地面でも豊かな緑化ができますし、植物の根で建物を傷めることもありません」と猪狩さんはアドバイスする。
エクステリアと建物は切り離せない関係だ。一体にデザインすることで美しいハーモニーが生まれ、心地よい住環境が得られる。敷地条件や建物の設計にマッチした外構プランを描き、枕木やレンガ、テラコッタといったエイジングが美しい素材と植栽を組み合わせて、年月を経るほどに味わいを増す佇まいを創り出してはいかがだろう。

猪狩 達夫(いかり・たつお)

アーバンデザイナー。エクステリア&ガーデンアカデミー前学長。1959年早稲田大学建築学科卒業。菊竹清訓設計事務所に入所。カナダに渡り、トロント大学大学院アーバンデザイン専攻修了後、ロンドン滞在を経て帰国。1968年より大阪で都市計画に携わる。1972年、(株)イカリ設計を設立。2000年、兵庫県より「人間サイズのまちづくり・街並み設計賞」受賞。著書『戸建て集合住宅による街づくり手法』、編著『イラストでわかるエクステリアデザインのポイント』など。

広々快適にくつろぐ工夫に満ちた究極の「狭小邸宅」クルーザーデザイナー薄 雅弘

海の上を走りながら、贅沢な気分でゆったりとくつろぎの時間を楽しめるサロン・クルーザー。限りあるスペースに上質の居住空間を創り出す薄 雅弘さんのデザインには、視線の広がりと心地よさを生むヒントがいっぱい!

サロン・クルーザーは洋上のコンドミニアム

シャチを思わせる流麗なボディの後部にあるアフトデッキから船室に入ると、そこには6〜7人がくつろげる本革シートを備えたリビングが広がっていた。約8畳大のスペースに操縦席、キッチン、シャワールーム&トイレまでもが配置されているにも関わらず、窮屈さを全く感じさせない。まさに「洋上のコンドミニアム」である。
限りあるスペースをいかにデザインして、ゆったりと快適に過ごせるラグジュアリーな空間に仕立てるか。サロン・クルーザーは、いわばその大命題をクリアした究極の形と言えるだろう。

このクルーザーをデザインしたのは、薄 雅弘さん。ヤマハ発動機株式会社で25年のキャリアを持つボートデザインの第一人者だ。船とはいえ、ソファの座り心地からキッチンの使い勝手まで、オーナーから求められる機能や美しさは住まいと同じレベル。IHクッキングヒーターは2口、電子レンジ、温水器、エアコンはもはや当然の設備である。高価なものだけに、洗練されたインテリアや素材の本物感、上質のくつろぎと空間のゆとりも欠かせない。こうした難しい課題を薄さんはどんな風にクリアしたのだろうか。
「このクルーザーの場合は、壁面や建具に鏡面加工を施した黒檀の銘木をあしらい、横目の木目柄で水平ラインを強調することで視線の広がりを演出しています。キッチンなど目に入る設備は同じ黒檀の扉で高級家具のように見せてすっきりと統一させました」

茶室の知恵を取り入れて、寝室に視覚的な広がりを

船の前部に設けた主寝室もひとひねり。入口を狭くして奥に行くほど幅広く、天井高くする遠近法で開放感を生んでいる。
「実はこれ、茶室のにじり口から得た発想なんです」と薄さん。
狭い空間を上手に間取って端正で居心地のいい住まいを創り出す日本古来の知恵や美意識を、クルーザーにもさりげなく取り入れているのである。また、壁の一部をミラー貼りにすることでも、視覚的な広がり効果を出している。
照明にも目を向けてみよう。
「最近はクルーザーもLED照明がトレンドです。ただしLEDの光は冷たくなりがちなので、白い色に負けないよう暖色系のインテリアコーディネートをしたり、電球色に近い暖かみのある色を選んだりすることが多いですね」
天井のFRPがパール素材入りのホワイトで塗装されているのも見どころだ。ダウンライトの光が当たると反射で拡散し、明るさと広がりが生まれる仕掛けである。また、ラウンジシートの下にはテープライトを組み込むなど、間接照明のあしらいも優美である。

船の設計者と二人三脚で、理想の空間を創っていく

サロン・クルーザーの設計デザインでむずかしいのは、海の上を走る乗り物としての性能と、「邸宅」としての心地よい居住性を両立させることだ。
「船は自動車やモーターサイクルのデザインとアプローチが全く異なります。自動車やモーターサイクルの構造は内骨格で、外装は風を防ぐなどの役割はあっても、主機能を有していませんから、そこでデコレーションができます。でも、船の場合は外骨格で、いわば昆虫と一緒なんです。ボディがない限り、浮かぶことも進むこともできません。走るという性能を外骨格でしっかりと実現しつつ、内部を快適なサロンに創り上げていかなければなりませんから、まさに船の設計者と二人三脚の仕事になります」と薄さんは語る。

たとえば海の眺めと開放感を楽しむために窓が重要な役割を果たすのは住まいと同様だが、船は波を乗り越えて着水したとき、最大で自重の20倍の荷重がかかるため、普通の窓では耐えきれず、壊れてしまう。そのため構造解析をして強化ガラスを使い、補強材で固定しつつ、思い通りの広い視界をデザインしていく。
また、居住空間をデザインするとき、設計者がエンジンを据えたいと思う位置が、薄さんにとっては避けたい場所だったりすることもある。「もっと後ろに持っていけない?」、「いや、これ以上は無理かな」。そんなせめぎ合いはしょっちゅうのこと。エンジン音を防ぐために吸音材を入れ、壁の角を丸くして音が響かないようにするなど、コンビを組み、頭を突き合わせて対策を考え、どちらにとってもベストのレイアウトを生み出していくという。

サロン・クルーザーには、狭小・変形地での上手な家づくりのヒントがたくさん隠れている。たとえば色の使い方ひとつで、空間を広く見せられると薄さんは言う。
「一番低い床の部分を濃い色にして、そこからベージュ、ホワイトとグラデーションをつけるなど、足元から上にいくに従って明るい色にしていけば、実際よりも広さと高さを感じることができます。また、狭い部屋でも家具の高さを5センチ下げるだけで、空間は広く見えるものです」
これから家づくりをお考えの方は、頭の隅に残しておきたいワンポイント・アドバイスである。

薄 雅弘(うすき・まさひろ)

桑沢デザイン研究所プロダクトデザイン卒。1987年、ヤマハ発動機入社後60モデル以上もの数多くのボート&ヨットをデザイン。ヤマハ発動機退社後、現在は株式会社Markes 代表取締役。

いいまち見つけて豊かな暮らし街と住まいの解説者中川寛子

住まい選びは街選びから始まる。どんな街に住み、どんな人たちとふれあうかによって、毎日の過ごし方も家族の思い出も変わる。将来にわたって安心して心地よく暮らせる街選びの秘訣を中川寛子さんに伺った。

住民に大事にされているか、実際に街を歩いて観察する

足まわりの便が良く、買い物にも便利な街が一般的には住みやすい場所だと考えられるが、街選びの基準は利便性だけではない。家族構成やどんな暮らし方、どんな人間づきあいがしたいかなどによっても街に求めるものは変わる。我が家にふさわしい街かどうかを見極めるには、その地を訪れて自分の目で街並みや人々の営みを観察することが大切だ。どんなタイプの人たちが多いのか、住んでいる人たちが自分の街を大事に思っているかどうか、歩道や公園、商店街などを散策すればそれとなく感じることができる。
「並木がきれいに保たれている、道路にゴミが散らかっていないなど、住民に大切にされている街は古くてもきれいですね。また、みんなが協力して掃除やイベントをするといった地域活動を通してお互いの交流があります。そうした街の住民は夜中に大きな音を立てるような近所迷惑になる行為はしないものですし、不審な人物や不届き者は自ずと入りにくい雰囲気になります。子育て世代の方にとっては公園が交流の場になるので、公園にいる親子がどんな言葉遣いでどんな会話をしているのかもさりげなく確かめてみましょう」と中川さんは語る。
一方、まとまって開発された分譲住宅には、古くからある住宅街では得られない魅力がある。
「統一された街並みが美しいですし、近隣との距離感や視線の外し方、エリア内の道路の作り方、防災、植栽、ゴミ置き場など、計画的に開発されているからこその住みやすさがあります」と中川さん。
同じタイミングで入居する家族が多いため、子どもに友達ができやすく、親同士のコミュニティが作りやすいのもメリットだろう。

地震に強い街選び、地盤の強さも要チェック

災害時、住まいは家族を守るシェルターとなる。特に地震国日本では、建物の耐震性と同時に立地の地盤についても知っておきたい。中川さんによると、地形と地質、地盤の固さには関連があり、単純に言えば新しい地形は軟らかく、古い地形は固い。従って土地がいつ作られたかを知れば、地盤の固さが想定できるという。
「最近では地盤調査の結果がインターネットも含め、多く公開されていますから、そこから推察するといいですよ。たとえば物件を見に出かけた先で、その土地の地盤が心配になったら、今はその場でスマホやタブレットで検索して調べることもできるのです」
そう言って中川さんが勧めてくれたのは、「20万分の1日本シームレス地質図」(産業技術総合研究所)だ。サイトを開き、「地質図の表示」をクリックして見たい地域をクローズアップする。そして画面右下に出てくる方位マークをタップすると現在地にマーカーが立ち、そのマークをタップすると解説文が出てくる。
国土交通省のサイトで各種自然災害のハザードマップも見ておこう。自然災害による被害を予測して、その被害範囲が地図上に表わされている。いずれにしても、土地の特性を知った上で、適切な対処をして家を建てることが重要だ。

我が子にとっての故郷になるという視点

子どものいる家庭であれば、子育てがしやすい街かどうかも気になるだろう。ただ、何をもって子育てに良いと判断するか、答えは一律ではない。たとえば自治体のサポートを見ても、乳幼児への子育て支援が手厚い場所もあれば、教育に力を入れている場所もある。近くに伸び伸びと子育てができる大きな公園がほしい人もいるだろう。まずは自治体のホームページでどんなサービスや施設があるのかを調べてみたい。複数を見比べると、自治体ごとに差があることがわかるはずだ。
「ただし、子どもを巡る状況は、乳幼児、小学生、中学生、高校生と成長するにつれてニーズが変わるので、子育てに関しては短期的な視野に陥らないことが大事です」と中川さん。

乳幼児に手厚いけれど、学童保育が少ない自治体の場合、子どもが小学校に入ったら共働きを続けるのが大変になることもある。将来を見据えて、我が家ならどこを一番手厚くしてもらいたいかを明確にした上で、その条件にふさわしい街を選ぶといい。
「子育て世代の方にお話しするときに私が必ず言うのは、『選んだ街がお子さんにとっての故郷になる』ということです。街にはそれぞれ違った景色や人間関係、お祭り、神社、食べ物などがあります。それらが子ども時代の原風景となり、後の人生に影響を与えます。ですから、大人になって子どもの頃を懐かしむとき、心温まる楽しい思い出がたくさん蘇るような街を選んであげてほしいのです」
自分の子どもの故郷になるなら、あなたはどんな街がいいだろうか。 また、理想の街が見つかったからといって、どんな家でもいいわけではない。安心できる性能や将来の資産価値を見据えた住まいを選ぶことも大切である。

中川寛子(なかがわ・ひろこ)

大学卒業後、編集プロダクションに入社。その後、一戸建て注文住宅の情報誌の編東京都大田区生まれ。早稲田大学教育学部社会学科卒業。株式会社東京情報堂代表取締役。約30年に渡り、不動産関係の雑誌、書籍、WEBで取材、執筆を続け、セミナーも開催して、地盤・街選びや住まいの買い方、暮らし方についての提案を行っている。著書に「『この街』に住んではいけない!」(マガジンハウス)、「キレイになる部屋、ブスになる部屋」(梧桐書院)、「住まいのプロが教える家を買いたい人の本」(翔泳社)など。日本地理学会会員。日本地形学連合会員。

  • 連載「住まいとお金」ファイナンシャルプランナー 久谷真理子
  • わが家の建てどきガイド
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