Column│新しいライフスタイルのご提案や、子育て、オーナーさまのこだわりのお宅拝見、
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片付け上手になるヒケツは?建築家多田祐子

モノが捨てられなくて収納に困っている、片付けが苦手で何から手を付けていいかわからない...。
そんな悩みを解決して、すっきり美しい暮らしを実現するために、まずは頭の中の整理整頓から始めよう。

好みの住空間イメージを言語化して明確に把握する

 気がつくといつのまにかモノが増えてリビングにあふれ、いつも雑然としている...。そんな状態に悩む家庭は多いだろう。話題の「断捨離」を決行し、不要なモノを思い切って処分したいけれど、どれを残してどれを捨てればいいのやら迷うところだ。
 それに、家族の思い出の品や滅多に使わなくてもずっと大事にしたいものだってある。モノと上手に付き合って、美しく快適に暮らすためには、どんなことを心がければいいのだろうか。
 建築家であり、セラピストとしても活躍する多田祐子さんは、自分がどんな空間で暮らしたいのかにまず気づいてほしいという。
「部屋が片付かないのは、実は頭の中が雑然としているからなのです。まず頭の中を片付けるために、自分が憧れる住まいのイメージを言語化してみましょう。たとえば『白い雰囲気の清々しくて透明感がある部屋に住みたい』、『アンティークな家具や調度品が似合うダークな雰囲気の部屋が好き』というふうに。するとその空気に似合わないモノが浮かび上がり、必要なものと不要なものを取捨選択できるようになります」

 多田さんは自分が目指したい暮らしのスタイルを見極める練習として、雑誌やネットで見つけたいろんなお気に入りの住空間の写真を切り抜き、スケッチブックに貼ってみることも勧めている。写真に添えられたタイトルやフレーズなど、空間を形容する文章も一緒に切り貼りしておくのがコツ。こうすることで今まで漠然としていた自分の好みの空間イメージが具象化され、明確に把握できるようになる。そしてインテリアに対する感性も磨かれていくという。
「センスを磨くとは、ムダをそぎ落としていくことに他なりません。頭の中が整理整頓されると、モノを選ぶときも軸がぶれなくなり、結果として家の中に余計なものが増えなくなります」

「小掃除」「中掃除」で生活を見直す習慣を

 上手な整理整頓の秘訣は、時間を区切って所有しているモノを見直し、未来を見つめながら過去を整理することだと多田さんは考えている。そこで年末の大掃除だけでなく、一日の締めくくりに「小掃除」、四季折々に「中掃除」をする習慣も提唱している。
「その日の終わりにほんの10分でいいから、散らかった部屋をざっと片付ける小掃除の習慣をつければ、毎日に区切りが生まれ、生活を見直すことができます。また、昔の日本は季節ごとに床の間の掛け軸を掛け替え、夏と冬で建具も取り替える伝統がありました。これに習い、四季の節目に中掃除と称して、衣替えだけでなく、季節物の調度品やしつらえを手入れし、入れ替える文化の日にしてはどうでしょう。たとえば『蔵』のような大収納空間があれば、我が家の文化の懐も深くなりそうですね」

包容力のある収納空間が心にもゆとりをもたらす

「蔵」のような大収納をつくるという発想は、日本の伝統でもあると多田さんは言う。
「昔の日本家屋には、季節物やふだん使わないものをまとめて収納しておくために、蔵や納屋のような別棟の大収納がありました。また、武家屋敷を見るとわかりますが、和室の天井が低く、屋根裏が今でいうロフトのような収納空間になっています。ミサワホームの『蔵』は、こうした役割を住まいの内部に取り込んだもので、日本の暮らしの理にかなっています」
 それに、散らかったものをきちんと分類して適所に収納しなければならないと思うと、片付けが億劫になるものだ。とりあえず一時的にでもいろんなものを一緒くたに放り込んでおけるこんな「何でも部屋」がひとつあれば、掃除もしやすいし、気持ちもラクになる。
「たとえばリビングのそばに大収納があれば、散らかっているときに突然の来客があっても慌てないですみます。そこにザザッとモノを押し込んで、何気ない顔をしてゲストをお迎えすればいいんですから」と多田さん。
 包容力のある収納空間が拠り所となってストレスが解消され、日々の暮らしにも住む人の心にもゆとりをもたらしてくれるのだ。

多田祐子(ただ・ゆうこ)

2000年、多田建築設計事務所を設立。お客様の思いを読み取り、7年先のライフスタイルを見据えた設計に定評がある。和の造作を色や音楽に落とし込み現代の空間に融合させカタチにできる数少ない建築家として活躍。街を活性化させていく「地域住民の交流」や「文化活動の拠点」となる空間づくりにも力を注ぐ。「美しく住まう」「整理整頓をしながらセンスを磨こう」などをテーマとした講演家としても活躍。

都市での快適な住まいづくりの秘訣建築家松永基

都市部の住宅地では広い敷地を確保できず、十分な採光・通風や、思うような眺めが得られないことが多い。
そうした状況の中で理想の家をつくるにはどんな知恵と工夫が大切になるのか。
建築家の松永基さんにお話を伺った。

確保したい3要素は採光、通風、プライバシー

都市での住宅建設は、用途地域・防火地域、建ぺい率・容積率、道路との接地状況、高さ規制、北側斜線といったさまざまな建築規制に縛られる。そうした制約をクリアしながら、住宅密集地の限られた敷地であっても明るく、気持ちよく、ゆったりとリラックスできる空間を創り出すポイントは、どこにあるのだろうか。
まず考えたいのは採光、通風、プライバシーの3要素である。建築家の松永基さんは、開口部=窓を高い位置に設けることで、これらの問題は解決できることが多いと語る。トップライト(天窓)やハイサイドライト(高窓)を上手に配置することで、周囲の視線を気にすることなく、心地よい光と風を採り入れたい。夏は天井近くに溜まる熱気を外に逃がすことができ、防犯面でも心配が少ない。

「明るく暮らすために窓はなるだけ大きく取りたいと思うでしょうが、ちょっと考えてみてください。窓の外に見えるのが不快な景色だったら嫌でしょう? また、隣の家や通りから丸見えだと、せっかくの窓もカーテンを閉めっぱなしにするしかありません。だったら思い切って壁でふさいでしまって、天井からすぐ下の壁にハイサイドライトを設けた方が快適です。外からの視線を遮りながら十分な自然光を採り入れることができ、室内からは空の眺めが楽しめますから」と松永さん。
大きな窓は設けても、その向こうの外塀をかなり高くして通りから目隠しし、塀の上部の青空だけが見えるようにする方法もある。

空間を立体的に使って縦・横・斜めの広がりを

次に考えたいのが、広がりを感じる住まい。限られた敷地を有効活用してゆとりのある住空間を生み出すには、家を間取り(平面)ではなく空間(縦・横・高さ)で考えることが重要になる。そこで松永さんは狭小住宅を設計するとき、建物の床の高さをずらして住空間を立体的につくっていく「スキップフロア」という手法をよく活用する。
「空間を立体的に使うことで、見上げたり、見下ろしたり、視線が斜めに抜けて長くなります。すると視覚的な広がりが生まれるのです。一方で、各フロアはオープンにつながりながらも、段差で視界が適度に遮られるため、それぞれの独立感覚も確保できます」
空間が壁で仕切られずにつながっているから、家族の気配がほどよく伝わってくるのもうれしい。

間口に対して奥に長い敷地など、採光が難しい立地の場合は、スキップフロアの住まいの中央に吹き抜けをつくり、最上部の天窓から光を採り入れて「光井戸」にすることで十分に採光できるという。いわば立体で構成された現代の町家の発想。「光井戸」を町家の「坪庭」のように利用するわけだ。
「部屋に吹き抜けがつくれなくても、住まいの中心に蹴上げの部分がないスケルトンの階段を設けて、階段室を光井戸にすれば、家全体に明るく自然光が届き、縦、横、斜めに視線が抜ける開放的な暮らしが楽しめます」

また、インテリアによる視覚効果でも、住空間を広く見せることができる。
「狭い空間を広く見せたいなら、白一色で内装をまとめるのが効果的です。あるいは壁の一面だけ色を変えてアクセントウォールにすると、メリハリが生まれて広がりを感じます」

限られた敷地のため、庭が取れないのも都市の住宅ではよくある。そんな場合は屋上にルーフバルコニーをつくり、庭感覚で楽しむのもいい。青空の下でお茶を飲んだり、バーベキューをしたり、都市の暮らしでリゾート気分が味わえる。

スキップフロアの床下を利用して大収納を実現する

都市型住宅で、もうひとつ頭を悩ませるのが収納の確保だろう。収納スペースはたくさんほしいけれど、そのせいでリビングが狭くなるのは避けたいもの。この点もスキップフロアにすれば、階の上下に生まれるデッドスペースを収納にフル活用できる。
たとえば半階あがった床の下を利用して、延床面積に参入されない(※)天井高1.4メートル未満の大収納空間にすれば、かさばるモノもまとめてたっぷりと収納でき、すっきり広々と暮らせる。ロフトのようにはしごを使わないから安全・便利で出し入れもスムーズだ。
※自治体により、参入する場合もあります。

さらに壁一面に収納を設ける、ソファの代わりになるベンチ収納を造り付ける、小上がりの和室の下を引き出しにするなど、なるべく後からかさばる家具を置かないですむように造作しておきたい。
敷地が限られているからといって、理想の暮らしをあきらめることはない。むしろ、知恵を凝らすことで我が家のライフスタイルに合ったオリジナリティのある住まいづくりを楽しむことができる。

「秘訣は間取りではなく、暮らし方から考えることです。たとえば子どもの勉強部屋をどうしても個室にする必要はありますか?『寝るだけだから2畳あればいい。勉強する場はリビングの一画に設けよう』というように、家族の暮らしをイメージするとうまくいきます」と松永さん。
まずは自分たちがどんな生活がしたいのかを見つめ直し、空間を二次元ではなく三次元で考えて、我が家らしい個性と楽しさに満ちた住まいをつくりたい。

松永 基(まつなが・もとし)

1958年神奈川県横浜市生まれ。1982年日本大学理工学部建築学科卒業。1991年有限会社エムズワークス設立、佐賀和光に従師する。現在、エムズワークス主宰。1989年日新工業建築設計競技3等賞、1992年逗子市公衆トイレコンペ最優秀賞、1996年INAXグリーンカップ銀の鉢賞、2000年リビングデザイン賞「縁側」グランプリ、2007年鎌倉市常盤住宅設計競技優秀賞、2007年JIA(日本建築家協会)「建築家のあかりコンペ」最優秀賞受賞。日本建築家協会(JIA)会員。神奈川建築士会会員。

優良ストック住宅の普及で住まいの資産評価はどう変わる?住宅再生推進機構高橋正典

価値あるものを永く大切に使うストック型社会を迎え、良質の中古住宅を資産として評価し、流通を促進する「スムストック」の取り組みが注目されている。中古住宅市場の活性化に努める高橋正典さんにお話を伺った。

中古住宅を適正に評価し永く住み継ぐ時代が来た

日本の住宅は寿命が短く、30年も経てば建て替え時期と言われてきた。長く新築偏重の時代が続き、建てては壊す「スクラップ&ビルド」の考え方が主流だったからだ。実際、中古住宅は優良物件であっても評価が低く、中古流通市場において築20〜25年の木造物件の建物評価はゼロ。減価償却に関する省令でも、木造住宅の法定耐用年数は22年と定められている。
「古いというだけで資産価値がないと評価されるのはどう考えてもおかしいでしょう。まだ十分使用できるのに取り壊すのは、地球環境保護の視点からも間違っています」と高橋正典さんは語る。
 きちんとメンテナンスをして住宅の価値を守り、永く大切に住み継ぐことは、産業廃棄物を減らすことにもつながる。そこで高橋さんが専務理事を務めるNPO法人「住宅再生推進機構」では建物再生支援を行い、「良質中古住宅Ⓡ認定制度」を設けて安心・安全な中古住宅の普及を推進している。

 政府もこうした状況を改善しようと、中古住宅を有効な住宅資産として活用するための仕組み作りに動き出した。国交省では平成25度から「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル」という会合を開催。建物価値が消滅するのを防ぎ、中古住宅市場を活発化させるために、どのような市場環境の整備と制度が必要なのかを議論している。
「今や総住宅数は世帯数を大きく上回り、空き家は過去最多となる820万戸と増加の一途を辿っています。お金にならないから売りに出されず、空き家になったままの物件も多いのです。住宅資産を資金化できれば、こうした空き家問題の解消にもつながるでしょう。高齢者が自宅を担保に年金の形で借り入れができるリバースモーゲージも本格的に普及するかもしれません」と高橋さんは期待する。

スムストック条件を満たす資産価値ある家づくりを

 住宅メーカーでもすでに新築物件の開発・販売だけでなく、既存の住宅を社会共通の資産にするための取り組みに力を入れている。2008年にはミサワホームを含む9社が参加して「優良ストック住宅推進協議会」を設立(現10社)。良質な中古住宅を「スムストック」として評価し、広く流通させようと努めているところだ。
 スムストックは、「住宅履歴情報の保有・管理」、「50年以上の点検制度・メンテナンスプログラム」、「新耐震基準レベルの耐震性能」という3つの条件を満たす住まい。査定は構造躯体(スケルトン)と内装・設備(インフィル)に分けて行われるので、住宅の価格がより明確になる。販売時には土地の価格と別々に表示される。また、リフォーム履歴やメンテナンス記録も含めて査定されるので、売り主は手入れした分、価格面でも高く評価されるメリットがある。

「中古住宅の購入の難しさは、建物がどのような状態なのか、わかりづらいことでした。なかには『古い味わいが好き』といった理由で中古を選ぶ方もいますが、住宅はビンテージの家具を買うのとわけが違います。家族の安全を守るシェルターですから、耐震性など構造がきちんと評価されている点は何よりも納得ですね」と高橋さん。
 目に見えない性能や住まいの履歴がきちんと把握でき、築50年以上のメンテナンスプログラムも継承できるとなれば、買う側の安心感は大きく高まる。
「終身雇用制度が崩れ、将来の保証が見えない今、長期の住宅ローンを安心して組むためにも、資産価値を高く保てる家づくりは不可欠だと思います。また、住宅は人よりもずっと長生きします。『スムストック』のお墨付きがあれば、お子さんにも喜んで住み継いでもらえるのではないでしょうか」

高橋正典(たかはし・まさのり)

NPO法人「住宅再生推進機構」の専務理事として、『ストック住宅』の流通促進や「長期優良化」に関する活動を行う。国土交通省 長期優良住宅先導事業採択による「住宅履歴書」に関する講演・セミナーや、不動産会社と建築・リフォーム事業者、並びにファイナンス事業者との事業者連携コンサルティングの実績多数。また、不動産業界を単なる紹介ビジネスではないエージェント企業とすべく、株式会社バイヤーズスタイルを設立し、業界初全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の資産価値の向上を図る。その後、社名を価値住宅株式会社として「住宅価値創造企業」を目指す。

ランドスケープデザインに「庭屋一如」の美学を見るランドスケープデザイナー宮城俊作

京都宇治の平等院に生まれ、ランドスケープデザインの第一人者として、世界的に活躍する宮城俊作さん。宇治のアトリエを拝見すると、視界をコントロールして価値ある眺めを生み出す仕掛けが巧みに施されていた。

「触景」を採り入れて、五感に響く空間づくりを

 宮城俊作さんは、ザ・ペニンシュラ東京やザ・キャピトルホテル東急など、ホテルのデザインにもかかわったランドスケープデザイナーの第一人者。京都の宇治川のほとりに建つ世界遺産、平等院にある塔頭の最勝院のご子息として生まれ育ち、現在もお住まいになっている。  平安時代に浄土教の極楽浄土をこの世に現そうと造られた平等院。その贅を尽くした広大な庭園が毎日の遊び場だったという宮城さんは、幼い頃から大の植物好きで、庭園に出入りする植木職人の後をいつも付いてまわっていた。樹木が剪定される様子をいつまでも飽きずに眺め、いつしか数百種にも上る植物の名前を覚えていたという。そんな生い立ちは、宮城さんのランドスケープデザインの仕事にどんな影響を与えたのだろうか。
「実は最近まで和をあえて意識しないでデザインしてきたんです。和の伝統美をあからさまに出すのは、なにかわざとらしい気がしたものですから。それでも私の根底に日本的な感性は宿っているでしょうから、おのずとどこかに滲み出るものです。たとえば日本庭園は、遠景・中景・近景の重なりに加えて、『触景』も大切な構成要素になっています。これは素材の触感だけでなく、苔を見て湿り気を感じたり、砂利の上を歩く音を聞いたりといった五感で感じる心地よさのことで、日本人なら誰しも馴染みのあるものですが、私もこうした『触景』の魅力を空間づくりに活かしています」
 それはザ・ペニンシュラ東京のエントランスにもうかがえた。車回しの中央では、庵治石を組み合わせた床をたたく噴水がゲストを迎え、涼やかな水音で包み込む。
「ホテルでは『センス・オブ・アライバル』と言って、訪れた人が最初に車を降りて玄関に入るとき、どういう印象をもつかが施設そのものの評価を大きく左右します。ですから建築家とのコラボレーションによって、そこをどのようにデザインするかが非常に重要なのです。住まいづくりにも同じことが言えるのではないでしょうか」

南禅寺別荘群の建築に「引き算の美学」を見る

東側の窓の外に広がるの伽藍の屋根や美しい山並み。手前の墓地の塀はシラカシの生け垣で見えない。樹木の高さを調節して目障りなものを隠す「引き算のデザイン」である。

 ただし、ホテルにしろ、住まいにしろ、外側のデザインはつくれても、風景はつくれないと宮城さんは言う。風景は現れてくるもの。そのきっかけをつくったり、より感じやすくする仕掛けを施すのがランドスケープデザインなのだと。
「自分の手の届かないところの風景をどう扱うか。私はよく『引き算のデザイン』と言うのですが、何かひとつを除けたとたんに、パッと見えてくる美しさがあります。あるいは具合の悪いものを隠すことで、その背後にある風景が引き立ってくる。すでに存在している風景と建築物との間に新しい関係をつくるのがこの仕事の妙味と言えばいいでしょうか」
 京都には家屋と庭が一体となって絶妙の調和を見せる「庭屋一如」の名建築が多いが、なかでも遠くの風景を庭園にうまく採り入れているのが、明治から大正時代にかけて政財界の著名人を魅了した南禅寺界隈の別荘群だ。
「東山を借景に取り込んだ見事な景観ですが、実は庭を眺めたとき、間にある目障りな建築物が見えないように、樹木の高さを調節して隠しているのです」

環境を資産としてとらえ創造したアトリエ

平等院の裏手に建つ宮城さんのアトリエ(建築設計/長坂大氏)。冬にはクマザサが黄色みを帯び、秋にはヤマザクラも紅葉するなど、四季折々の眺めが楽しめる。

 視界をコントロールして周辺の環境をうまく活かすこうした手法は、現代の住まいづくりにも応用できる。そのお手本ともいえるのが、平等院の裏手にある宮城さんのアトリエだ。そこには果たしてどんな工夫が施されているのか、見てみることにしよう。
 外観は南北に長いシンプルな平屋の建物で、地面から少し浮かせた設計になっている。「床を上げた理由は、すぐ東隣に墓地があるので、それよりも高いところに目線をもってきたかったからです」と宮城さん。

玄関の踏み石と切り石のアプローチ。どちらも元は平等院の境内にあった石で、切り石は鳳凰堂の雨落ちを止める葛石だったという。

 踏み石の玄関から木戸を開けて屋内に入れば、そこはミーティングルーム。テーブルに座って、ふと顔を上げると、細長い窓の外に平等院の鳳凰堂の屋根、さらに宇治川の対岸に連なる山々の稜線が美しく広がる。すぐ隣の墓地の塀はシラカシの生け垣でうまく隠され、全く存在を感じさせない。

西側に向けて切られた地窓。桟橋のように走るデッキも庭の構成要素。

 一方、アプローチのある西側には地窓が開いていて、面状に植えられたクマザサの原に3本のヤマザクラが立つ風景が枠で切り取られ、一幅の絵のように見える。午後になると窓から西日が射し、床にヤマザクラの影を描くという。このヤマザクラは、通りから建物をあからさまに見せない「障り」の役割も果たしている。
「大切なのは、その場所に潜在している環境の価値を読み取ること」だと語る宮城さん。環境を資産としてとらえてデザインすることで、思いがけない豊かな空間が生み出せるのである。  逆に考えると、新たな家を建てるということは、その土地の環境を変えることにもつながる。できることなら向こう三軒両隣を含めて、ランドスケープ的な視点から庭や外側の風景を考え、街並みのなかで価値ある資産となるような住まいづくりがしたいものだ。

宮城俊作(みやぎ・しゅんさく )

ランドスケープデザイナー。京都大学大学院博士前期課程修了、ハーバード大学デザイン学部大学院修了。米国内の設計事務所勤務を経て帰国。千葉大学助教授を経て、現在、奈良女子大学住環境学科教授。設計組織 PLACEMEDIA パートナー。

子どもの「自律」に個室はどんな役割を果たす?環境心理学者北浦かほる

子どもの感性や自立を養うために、子ども部屋にはどんな機能が求められるのだろうか。世界の子ども部屋の比較を通して、子どもに個室を与えることの意味を研究してきた北浦かほる先生にお話を伺った。

悲しい時、腹が立つ時、一人で籠もれる空間を

 日本では家族のコミュニケーションを重要視するあまり、ともすれば「子どもが一人になる時間をなるべく作らない」のが良い家庭のあり方だと思いがちだ。しかし北浦教授は「子どもの精神面での発達において、一人になって考える時間を持つのは、実はとても大切なことなんです」と語る。
 私たちは子ども部屋=勉強部屋と考えているため、「子ども部屋を与える適齢期は?」などと頭を悩ませるが、欧米では子ども部屋=寝室であり、経済的に可能なら生後すぐにでも個室を与えるというのが親の共通認識だ。つまり、生まれた時から自律に向けて子育てをしていくわけである。そして子どもが悪いことをした時は、罰として子どもを寝室に閉じこめる。自由を束縛して一人で落ち着いて反省させるためである。

 また日本の場合、子どもの様子が見えることに親が精神的な安定感を持つことから個室を問題視する傾向も見られるが、北浦教授はそれをきっぱりと否定する。
「むしろ悲しい時や腹が立った時にひとりで閉じこもれないような空間なら、子ども部屋を創る意味はないと思います。よく気配の感じられる子ども部屋にすべきだとか、個室が閉じこもりを招くとか言われますが、問題が起きるのは個室のせいではなく、家族のあり方の問題です。いくら居間の大テーブルに集まっていても、子どもと積極的に向き合わないとコミュニケーションは成立しません」

自分だけの居場所を得て、自我と協調性を獲得する

 5歳から青年期までのプライバシー意識の発達を研究している米国の環境心理学者のM・ウルフによると、子どもは自分のプライベートな空間をコントロールする経験をしてはじめて、社会での他者とのかかわりにおいて自分を守り、かつ他者を認めることができるようになるという。「自分だけの居場所を得ることで、自我と協調性を獲得していく。つまり子ども部屋が自律を育む場所になるわけです」と北浦教授は語る。
 では、具体的には子ども部屋はどんな役割を持ち、そこからどんな効果が生まれるのだろうか。一つ目には、子どもがいろんなことを考えたり、空想する場所としての役割がある。何かを見て一人でイメージをふくらませたり、空想することで子どもの発想が広がり、自我が芽生えていく。

 二つ目は、入ってくる人を選ぶ、大切なものをしまうといった役割だ。「幼い子どもにも大切なものをしまったり、自分の意志で他人の侵入を拒むことができる個の空間が必要だとする考え方です」  三つ目は冒頭で紹介したように、叱られた時や腹が立った時に一人になって心を落ち着ける場所としての機能。そして四つ目が着替える、寝る、勉強する、電話する、日記・手紙を書くなど、人に聞かれたり見られたりしたくない行為をする空間としての役割である。
「大切なのは部屋の広さや装備ではなく、子ども部屋を子どもの居場所として位置づけることです。極端な話をすれば、押入れ一つ分あれば、こうした機能は十分に充たせます。上段と下段で二人分の子どもの寝室ができるのですから」と北浦教授は語る。
 また、欧米では子どもの自律には親への信頼が欠かせないとされ、信頼感を醸成するために寝室で子どもが寝付くまで親が絵本を読み聞かせる習慣が定着している。「一人で寝る」というのは幼児にとっては恐くて心細い体験だが、寝る前に親とふれあうことで強い絆を感じ、安心して乗り越えているのである。

欧米の絵本に見る、子ども部屋のあり方

 北浦教授は世界の絵本の中から住まいの状況が描かれているものに着目し、500冊以上ピックアップして内容を分析したという。その結果、絵本にみる幼児の寝室が、欧米では「自律とコミュニケーションを育む場」として描かれているのがわかった。たとえば叱られて寝室に閉じこめられて夢を見ていた子が、お母さんの運んでくれた夕食の匂いで目覚める『かいじゅうたちのいるところ』、弱虫で自室に閉じこもっていたエリックがナイトシミーに助けられて元気になる『ナイトシミー』など、幼児にも自分を見つめる必要性が物語に示唆されている。

 一方、日本では絵本に幼児の寝室は見られず、ダンボールで作った自分の家に友だちを招く『わたしのおうち』をはじめ、個室はすべてみんなで仲良く遊ぶための空間として描かれているという。
 日本の文化では自己主張のための子育てはされず、協調性を養うことが重視され、人とうまくやっていくことに目が向けられがちだ。それはこのように子ども部屋のあり方にも現れている。
「自己主張のできる欧米型と協調性に富んだ日本型、どちらがいいというわけではありません。ただし、これからの子どもは精神的に逞しく自律していかないと国際社会で生き抜いていけないのも事実。大切なのは養育姿勢です。まず、我が家はどんな子どもに育てたいのかを明確にし、そこから子ども部屋に求める役割を考えるといいのではないでしょうか」

北浦かほる(きたうら・かほる)

帝塚山大学教授。大阪市立大学名誉教授。学術博士。専門分野は居住空間学・環境心理学。空間が子ども特に幼児に与える影響に興味があり、環境心理学的視点から子どもと空間の関係を捉えてきた。著者に『世界の子どもの部屋』(井上書院)など多数。世界各国の夜間保育園の保育環境整備の研究や、住まいの絵本に見る日本と欧米の住の思潮の違いなど、子どもの空間と住文化の関係に興味をもつ。

  • 連載「住まいとお金」ファイナンシャルプランナー 久谷真理子
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