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優良ストック住宅の普及で住まいの資産評価はどう変わる?住宅再生推進機構高橋正典

価値あるものを永く大切に使うストック型社会を迎え、良質の中古住宅を資産として評価し、流通を促進する「スムストック」の取り組みが注目されている。中古住宅市場の活性化に努める高橋正典さんにお話を伺った。

中古住宅を適正に評価し永く住み継ぐ時代が来た

日本の住宅は寿命が短く、30年も経てば建て替え時期と言われてきた。長く新築偏重の時代が続き、建てては壊す「スクラップ&ビルド」の考え方が主流だったからだ。実際、中古住宅は優良物件であっても評価が低く、中古流通市場において築20〜25年の木造物件の建物評価はゼロ。減価償却に関する省令でも、木造住宅の法定耐用年数は22年と定められている。
「古いというだけで資産価値がないと評価されるのはどう考えてもおかしいでしょう。まだ十分使用できるのに取り壊すのは、地球環境保護の視点からも間違っています」と高橋正典さんは語る。
 きちんとメンテナンスをして住宅の価値を守り、永く大切に住み継ぐことは、産業廃棄物を減らすことにもつながる。そこで高橋さんが専務理事を務めるNPO法人「住宅再生推進機構」では建物再生支援を行い、「良質中古住宅Ⓡ認定制度」を設けて安心・安全な中古住宅の普及を推進している。

 政府もこうした状況を改善しようと、中古住宅を有効な住宅資産として活用するための仕組み作りに動き出した。国交省では平成25度から「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル」という会合を開催。建物価値が消滅するのを防ぎ、中古住宅市場を活発化させるために、どのような市場環境の整備と制度が必要なのかを議論している。
「今や総住宅数は世帯数を大きく上回り、空き家は過去最多となる820万戸と増加の一途を辿っています。お金にならないから売りに出されず、空き家になったままの物件も多いのです。住宅資産を資金化できれば、こうした空き家問題の解消にもつながるでしょう。高齢者が自宅を担保に年金の形で借り入れができるリバースモーゲージも本格的に普及するかもしれません」と高橋さんは期待する。

スムストック条件を満たす資産価値ある家づくりを

 住宅メーカーでもすでに新築物件の開発・販売だけでなく、既存の住宅を社会共通の資産にするための取り組みに力を入れている。2008年にはミサワホームを含む9社が参加して「優良ストック住宅推進協議会」を設立(現10社)。良質な中古住宅を「スムストック」として評価し、広く流通させようと努めているところだ。
 スムストックは、「住宅履歴情報の保有・管理」、「50年以上の点検制度・メンテナンスプログラム」、「新耐震基準レベルの耐震性能」という3つの条件を満たす住まい。査定は構造躯体(スケルトン)と内装・設備(インフィル)に分けて行われるので、住宅の価格がより明確になる。販売時には土地の価格と別々に表示される。また、リフォーム履歴やメンテナンス記録も含めて査定されるので、売り主は手入れした分、価格面でも高く評価されるメリットがある。

「中古住宅の購入の難しさは、建物がどのような状態なのか、わかりづらいことでした。なかには『古い味わいが好き』といった理由で中古を選ぶ方もいますが、住宅はビンテージの家具を買うのとわけが違います。家族の安全を守るシェルターですから、耐震性など構造がきちんと評価されている点は何よりも納得ですね」と高橋さん。
 目に見えない性能や住まいの履歴がきちんと把握でき、築50年以上のメンテナンスプログラムも継承できるとなれば、買う側の安心感は大きく高まる。
「終身雇用制度が崩れ、将来の保証が見えない今、長期の住宅ローンを安心して組むためにも、資産価値を高く保てる家づくりは不可欠だと思います。また、住宅は人よりもずっと長生きします。『スムストック』のお墨付きがあれば、お子さんにも喜んで住み継いでもらえるのではないでしょうか」

高橋正典(たかはし・まさのり)

NPO法人「住宅再生推進機構」の専務理事として、『ストック住宅』の流通促進や「長期優良化」に関する活動を行う。国土交通省 長期優良住宅先導事業採択による「住宅履歴書」に関する講演・セミナーや、不動産会社と建築・リフォーム事業者、並びにファイナンス事業者との事業者連携コンサルティングの実績多数。また、不動産業界を単なる紹介ビジネスではないエージェント企業とすべく、株式会社バイヤーズスタイルを設立し、業界初全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の資産価値の向上を図る。その後、社名を価値住宅株式会社として「住宅価値創造企業」を目指す。

ランドスケープデザインに「庭屋一如」の美学を見るランドスケープデザイナー宮城俊作

京都宇治の平等院に生まれ、ランドスケープデザインの第一人者として、世界的に活躍する宮城俊作さん。宇治のアトリエを拝見すると、視界をコントロールして価値ある眺めを生み出す仕掛けが巧みに施されていた。

「触景」を採り入れて、五感に響く空間づくりを

 宮城俊作さんは、ザ・ペニンシュラ東京やザ・キャピトルホテル東急など、ホテルのデザインにもかかわったランドスケープデザイナーの第一人者。京都の宇治川のほとりに建つ世界遺産、平等院にある塔頭の最勝院のご子息として生まれ育ち、現在もお住まいになっている。  平安時代に浄土教の極楽浄土をこの世に現そうと造られた平等院。その贅を尽くした広大な庭園が毎日の遊び場だったという宮城さんは、幼い頃から大の植物好きで、庭園に出入りする植木職人の後をいつも付いてまわっていた。樹木が剪定される様子をいつまでも飽きずに眺め、いつしか数百種にも上る植物の名前を覚えていたという。そんな生い立ちは、宮城さんのランドスケープデザインの仕事にどんな影響を与えたのだろうか。
「実は最近まで和をあえて意識しないでデザインしてきたんです。和の伝統美をあからさまに出すのは、なにかわざとらしい気がしたものですから。それでも私の根底に日本的な感性は宿っているでしょうから、おのずとどこかに滲み出るものです。たとえば日本庭園は、遠景・中景・近景の重なりに加えて、『触景』も大切な構成要素になっています。これは素材の触感だけでなく、苔を見て湿り気を感じたり、砂利の上を歩く音を聞いたりといった五感で感じる心地よさのことで、日本人なら誰しも馴染みのあるものですが、私もこうした『触景』の魅力を空間づくりに活かしています」
 それはザ・ペニンシュラ東京のエントランスにもうかがえた。車回しの中央では、庵治石を組み合わせた床をたたく噴水がゲストを迎え、涼やかな水音で包み込む。
「ホテルでは『センス・オブ・アライバル』と言って、訪れた人が最初に車を降りて玄関に入るとき、どういう印象をもつかが施設そのものの評価を大きく左右します。ですから建築家とのコラボレーションによって、そこをどのようにデザインするかが非常に重要なのです。住まいづくりにも同じことが言えるのではないでしょうか」

南禅寺別荘群の建築に「引き算の美学」を見る

東側の窓の外に広がるの伽藍の屋根や美しい山並み。手前の墓地の塀はシラカシの生け垣で見えない。樹木の高さを調節して目障りなものを隠す「引き算のデザイン」である。

 ただし、ホテルにしろ、住まいにしろ、外側のデザインはつくれても、風景はつくれないと宮城さんは言う。風景は現れてくるもの。そのきっかけをつくったり、より感じやすくする仕掛けを施すのがランドスケープデザインなのだと。
「自分の手の届かないところの風景をどう扱うか。私はよく『引き算のデザイン』と言うのですが、何かひとつを除けたとたんに、パッと見えてくる美しさがあります。あるいは具合の悪いものを隠すことで、その背後にある風景が引き立ってくる。すでに存在している風景と建築物との間に新しい関係をつくるのがこの仕事の妙味と言えばいいでしょうか」
 京都には家屋と庭が一体となって絶妙の調和を見せる「庭屋一如」の名建築が多いが、なかでも遠くの風景を庭園にうまく採り入れているのが、明治から大正時代にかけて政財界の著名人を魅了した南禅寺界隈の別荘群だ。
「東山を借景に取り込んだ見事な景観ですが、実は庭を眺めたとき、間にある目障りな建築物が見えないように、樹木の高さを調節して隠しているのです」

環境を資産としてとらえ創造したアトリエ

平等院の裏手に建つ宮城さんのアトリエ(建築設計/長坂大氏)。冬にはクマザサが黄色みを帯び、秋にはヤマザクラも紅葉するなど、四季折々の眺めが楽しめる。

 視界をコントロールして周辺の環境をうまく活かすこうした手法は、現代の住まいづくりにも応用できる。そのお手本ともいえるのが、平等院の裏手にある宮城さんのアトリエだ。そこには果たしてどんな工夫が施されているのか、見てみることにしよう。
 外観は南北に長いシンプルな平屋の建物で、地面から少し浮かせた設計になっている。「床を上げた理由は、すぐ東隣に墓地があるので、それよりも高いところに目線をもってきたかったからです」と宮城さん。

玄関の踏み石と切り石のアプローチ。どちらも元は平等院の境内にあった石で、切り石は鳳凰堂の雨落ちを止める葛石だったという。

 踏み石の玄関から木戸を開けて屋内に入れば、そこはミーティングルーム。テーブルに座って、ふと顔を上げると、細長い窓の外に平等院の鳳凰堂の屋根、さらに宇治川の対岸に連なる山々の稜線が美しく広がる。すぐ隣の墓地の塀はシラカシの生け垣でうまく隠され、全く存在を感じさせない。

西側に向けて切られた地窓。桟橋のように走るデッキも庭の構成要素。

 一方、アプローチのある西側には地窓が開いていて、面状に植えられたクマザサの原に3本のヤマザクラが立つ風景が枠で切り取られ、一幅の絵のように見える。午後になると窓から西日が射し、床にヤマザクラの影を描くという。このヤマザクラは、通りから建物をあからさまに見せない「障り」の役割も果たしている。
「大切なのは、その場所に潜在している環境の価値を読み取ること」だと語る宮城さん。環境を資産としてとらえてデザインすることで、思いがけない豊かな空間が生み出せるのである。  逆に考えると、新たな家を建てるということは、その土地の環境を変えることにもつながる。できることなら向こう三軒両隣を含めて、ランドスケープ的な視点から庭や外側の風景を考え、街並みのなかで価値ある資産となるような住まいづくりがしたいものだ。

宮城俊作(みやぎ・しゅんさく )

ランドスケープデザイナー。京都大学大学院博士前期課程修了、ハーバード大学デザイン学部大学院修了。米国内の設計事務所勤務を経て帰国。千葉大学助教授を経て、現在、奈良女子大学住環境学科教授。設計組織 PLACEMEDIA パートナー。

子どもの「自律」に個室はどんな役割を果たす?環境心理学者北浦かほる

子どもの感性や自立を養うために、子ども部屋にはどんな機能が求められるのだろうか。世界の子ども部屋の比較を通して、子どもに個室を与えることの意味を研究してきた北浦かほる先生にお話を伺った。

悲しい時、腹が立つ時、一人で籠もれる空間を

 日本では家族のコミュニケーションを重要視するあまり、ともすれば「子どもが一人になる時間をなるべく作らない」のが良い家庭のあり方だと思いがちだ。しかし北浦教授は「子どもの精神面での発達において、一人になって考える時間を持つのは、実はとても大切なことなんです」と語る。
 私たちは子ども部屋=勉強部屋と考えているため、「子ども部屋を与える適齢期は?」などと頭を悩ませるが、欧米では子ども部屋=寝室であり、経済的に可能なら生後すぐにでも個室を与えるというのが親の共通認識だ。つまり、生まれた時から自律に向けて子育てをしていくわけである。そして子どもが悪いことをした時は、罰として子どもを寝室に閉じこめる。自由を束縛して一人で落ち着いて反省させるためである。

 また日本の場合、子どもの様子が見えることに親が精神的な安定感を持つことから個室を問題視する傾向も見られるが、北浦教授はそれをきっぱりと否定する。
「むしろ悲しい時や腹が立った時にひとりで閉じこもれないような空間なら、子ども部屋を創る意味はないと思います。よく気配の感じられる子ども部屋にすべきだとか、個室が閉じこもりを招くとか言われますが、問題が起きるのは個室のせいではなく、家族のあり方の問題です。いくら居間の大テーブルに集まっていても、子どもと積極的に向き合わないとコミュニケーションは成立しません」

自分だけの居場所を得て、自我と協調性を獲得する

 5歳から青年期までのプライバシー意識の発達を研究している米国の環境心理学者のM・ウルフによると、子どもは自分のプライベートな空間をコントロールする経験をしてはじめて、社会での他者とのかかわりにおいて自分を守り、かつ他者を認めることができるようになるという。「自分だけの居場所を得ることで、自我と協調性を獲得していく。つまり子ども部屋が自律を育む場所になるわけです」と北浦教授は語る。
 では、具体的には子ども部屋はどんな役割を持ち、そこからどんな効果が生まれるのだろうか。一つ目には、子どもがいろんなことを考えたり、空想する場所としての役割がある。何かを見て一人でイメージをふくらませたり、空想することで子どもの発想が広がり、自我が芽生えていく。

 二つ目は、入ってくる人を選ぶ、大切なものをしまうといった役割だ。「幼い子どもにも大切なものをしまったり、自分の意志で他人の侵入を拒むことができる個の空間が必要だとする考え方です」  三つ目は冒頭で紹介したように、叱られた時や腹が立った時に一人になって心を落ち着ける場所としての機能。そして四つ目が着替える、寝る、勉強する、電話する、日記・手紙を書くなど、人に聞かれたり見られたりしたくない行為をする空間としての役割である。
「大切なのは部屋の広さや装備ではなく、子ども部屋を子どもの居場所として位置づけることです。極端な話をすれば、押入れ一つ分あれば、こうした機能は十分に充たせます。上段と下段で二人分の子どもの寝室ができるのですから」と北浦教授は語る。
 また、欧米では子どもの自律には親への信頼が欠かせないとされ、信頼感を醸成するために寝室で子どもが寝付くまで親が絵本を読み聞かせる習慣が定着している。「一人で寝る」というのは幼児にとっては恐くて心細い体験だが、寝る前に親とふれあうことで強い絆を感じ、安心して乗り越えているのである。

欧米の絵本に見る、子ども部屋のあり方

 北浦教授は世界の絵本の中から住まいの状況が描かれているものに着目し、500冊以上ピックアップして内容を分析したという。その結果、絵本にみる幼児の寝室が、欧米では「自律とコミュニケーションを育む場」として描かれているのがわかった。たとえば叱られて寝室に閉じこめられて夢を見ていた子が、お母さんの運んでくれた夕食の匂いで目覚める『かいじゅうたちのいるところ』、弱虫で自室に閉じこもっていたエリックがナイトシミーに助けられて元気になる『ナイトシミー』など、幼児にも自分を見つめる必要性が物語に示唆されている。

 一方、日本では絵本に幼児の寝室は見られず、ダンボールで作った自分の家に友だちを招く『わたしのおうち』をはじめ、個室はすべてみんなで仲良く遊ぶための空間として描かれているという。
 日本の文化では自己主張のための子育てはされず、協調性を養うことが重視され、人とうまくやっていくことに目が向けられがちだ。それはこのように子ども部屋のあり方にも現れている。
「自己主張のできる欧米型と協調性に富んだ日本型、どちらがいいというわけではありません。ただし、これからの子どもは精神的に逞しく自律していかないと国際社会で生き抜いていけないのも事実。大切なのは養育姿勢です。まず、我が家はどんな子どもに育てたいのかを明確にし、そこから子ども部屋に求める役割を考えるといいのではないでしょうか」

北浦かほる(きたうら・かほる)

帝塚山大学教授。大阪市立大学名誉教授。学術博士。専門分野は居住空間学・環境心理学。空間が子ども特に幼児に与える影響に興味があり、環境心理学的視点から子どもと空間の関係を捉えてきた。著者に『世界の子どもの部屋』(井上書院)など多数。世界各国の夜間保育園の保育環境整備の研究や、住まいの絵本に見る日本と欧米の住の思潮の違いなど、子どもの空間と住文化の関係に興味をもつ。

子どもに安全な住空間とは?産業技術総合研究所西田佳史

子どもが大きなケガをしないよう、親として住まいの安全には気を遣いたいもの。どんなところに思わぬ危険が潜んでいるのだろうか。子育て住宅の調査から見えてきた実態と対策を西田佳史さんに伺った。

リビングに置くモノが子どものケガの原因に

 子どもの傷害の原因は普通の日常生活の中に潜んでいる。ふだん便利に使っている製品や道具、何気ない住空間が、ときに凶器と化してしまうのだ。こうした問題を解決していくためにミサワホームでは、キッズデザイン製品開発支援事業(経済産業省)による「子育て住宅調査」を、西田佳史さんが所属する産業技術総合研究所と共同で行っている。
「インターネットや家庭訪問で居住空間における子どもの事故や、危険な事例(ヒヤリハット)、家電製品を使うときの不安、住環境・間取りの不満などを聞き出しました」と西田さん。この調査から何が見えてきたのだろうか。

 家庭内で事故が起きた場所の1位は、意外にもキッチンではなくリビングで、約4割を占めた。家族全員が長時間を過ごすリビングには家具、小物、玩具、食品など、ぶつかる、つまずく、誤飲するといった事故の要因になり得るいろんなものが散在しているからだ。
「リビングに上手にしまえる場所がないから、あちこちに置かざるを得ず、それがケガを招いています。収納を充実させれば、かなり防げると思います」と西田さん。
 家具の配置にも気をつけたい。実際に死亡事故が起きている例として、西田さんが注意を促すのが窓まわりである。
「窓の前にソファやテーブルなど子どもの足がかりになるようなものを置かないようにしてください。子どもがよじ登って、窓から転落する事故が相次いでいます」。

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ヒヤリハット
目を離しても大丈夫な環境をつくることが大事

 続いて事故が多いのは、やはりキッチン。包丁や熱い鍋、コンロの火など、子どもに危険なアイテムがいっぱいある。まず、乳幼児はベビーフェンスなどで防いでキッチンに入れないことが基本対策だが、そのうえで事故の原因となるものはなるべく手の届かないところに置く工夫をしたい。
「つい見過ごしがちですが、炊飯器から出る蒸気を触ったり、のぞき込んだりして子どもが火傷をする事故がけっこう多く、皮膚移植が必要な大火傷も起きています。
炊飯器は高い位置に置き、熱い鍋ややかんは、小さな子どもが手を伸ばしても届かない30㎝奥(80㎝の高さのキッチンの場合)に置くようにしてほしいですね」

 また、見通しの良い対面キッチンは子どもの様子を見守れて安心だが、過信は禁物だという。
「見守りで事故が防げるかというと、実は難しいのです。たとえば子どもが転倒するのにかかる時間は0.5秒程度です。それに気づいて人が反応するのに0.2秒かかるので、転倒を防ぐには残りの0.3秒で子どものいる場所に駆けつけなければなりません。わずか1メートルの距離でも、時速20キロの速度が必要になりますから、現実には不可能です」と西田さん。
 子どもの事故を防ぐには、目を離さないことよりも、むしろ目を離しても大丈夫といえる環境をつくることが大事になる。

 恐いのがお風呂の事故だ。1〜2歳で多く、浴槽での溺死など大きな事故につながりやすい。
「今の浴槽は高齢者がまたぎやすいように、縁の立ち上がりが45㎝以下と低くなっています。ところがこの年齢の幼児は相対的に頭が大きく、重心の位置は床から40〜50㎝ほどと高いので、これだと転落しやすいのです」
 子どもが2歳までの間は、必ず残り湯を抜くことにするのが一番だが、大人と一緒に入浴していながらふとした隙に溺れるケースも多い。「縁を少し高くするだけで、転落は防げる」と西田さんはアドバイスする。

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ヒヤリハット
安全な住空間でこそ、子どもはアクティブに育つ

 さて、事故予防対策を万全にすると子どもの危険回避能力が育たないのではと危惧する方もいるだろうが、それは大きな誤解だと西田さんは明言する。
「むしろ逆で、対策をしない無防備な環境だと事故を防ぐためには子どもの行動を制限するしかありません。転んで痛い思いをしても、落ちて多少のケガをしても、大きな事故につながらない。そんな環境があってこそ、子どもは自由に動けて元気に育つのです。また、親も無用に叱らなくてすみますから、ストレスが減って心にゆとりが生まれます」
 よじ登る、飛び降りる、手を伸ばす、飛び出す、ぶら下がる、入り込む...。大人がいくら注意していても、子どもはその隙を狙うように思いがけない行動をするものだ。そんな子どもの危険に満ちた行動を頭から禁止するのではなく、好奇心、探究心のおもむくままにアクティブに遊ばせて、健やかに育てるためにも、住空間の安全対策をしっかりと施したい。

西田佳史(にしだ・よしふみ)

1998年東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。通産省(現:経済産業省)工業技術院電子技術総合研究所に入所し、改組により産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究ラボの研究員に。現在、デジタルヒューマン工学研究センター首席研究員。人間の日常生活行動の観察技術とモデリング技術、傷害予防工学、キッズデザインの研究に従事。2012年情報処理学会論文賞、2012年ヒューマンインタフェース学会学術奨励賞、2011年 日本人間工学会大島賞。子どもの事故防止に関する工学アプローチの実践的研究を通じ、安全知識循環型社会の実現を目指している。

人々の幸せを創り出すデザインとは?工業デザイナー水戸岡鋭治

デザインは社会の中でどんな役割を担っているのだろうか。デザインの力で私たちの暮らしはどう変わるのだろう。
JR九州の新幹線800系や豪華寝台列車「ななつ星」をはじめ、話題性の高い数々の鉄道車両を創り出し、日本の旅文化に新たな魅力をもたらしたデザイナーの水戸岡鋭治さんにお話をお伺いした。

・鉄道デザインと出合ったきっかけについてお聞かせください。

 もともと僕はイラストレーターで、若い頃は建築の完成予想図などを描いていたんです。ただ、いつかは本格的にデザインに取り組んでみたいという熱い思いがありました。それもグラフィックだけ、プロダクトだけというふうに特化するのではなく、総合的なデザインがしたいなと。願いが叶って1987年に福岡市のホテルのデザインに参加し、そのときの縁で当時のJR九州の社長から、車両のデザインをやってみないかと声を掛けられたのです。

・デザインをする上で大切にされているポリシーはなんでしょう。

JR九州 九州新幹線800系。シートは伝統の織り布地と本革の構成。テーブルなど木の温もりを活かしたエコ・デザインも特徴。木製ロールブラインドには九州山地の山桜を使用している。

 利用者の視点に立って考えるということです。日本の公共の空間は、見るもの、使うもの、美しくもなければ楽しくもなくて心地いいとは到底言えません。僕は公共空間のデザインの質の高さが、その国で暮らす人々の幸せに直結すると考えています。たとえば公園が禁止項目の看板だらけでなく、もっと自由で楽しい場であれば、自分の家に特別な庭を持たなくても心豊かに暮らせます。身近な環境の質が高ければ、子どもたちにも自然に豊かな教養や美意識が備わるでしょう。ですから僕は依頼主と徹底的に議論をしてでも利用者の立場に立ち続けることを旨として、長年デザインの仕事を続けてきました。鉄道車両にしても企業の事情を優先するのではなく、あくまでも乗客が喜ぶものをつくるという姿勢を貫いているつもりです。

・車両の内装に無垢材を使うなど、素材にもこだわりが感じられます。

 人が心地よいと感じるのは、やはり昔から触れてきた木、紙、土、草といった素材なんですね。鉄やガラスもそうです。ですから車両にも無垢材やガラス、革などを贅沢に使い、さらに和紙や金箔、組子など日本の伝統工芸も取り入れています。もちろん最初はメンテナンスが大変だとか、コストがかかるからと抵抗にあいましたが、そこは譲りませんでした。大切なのは企業にとっての経済性や利便性ではなく、利用者に喜んでもらえるかどうか。そのために赤字になるとしたら、それはある程度必要な赤字であると説得しました。今の時代、小綺麗なだけのデザインはもう底が割れています。これからは企業も経済のソロバンではなく、心のソロバンをはじかないと生き残れないと思います。

・住まいの中でデザインが果たす役割とは何でしょう。

 デザインとは色、形、素材の組合せではなく、いわば思想なんです。どういう生活をしたいのか、どんな人生を送りたいのか、子どもをどんなふうに育てたいのか。家を見れば、そこに暮らす人の生き方や考え方がわかってしまいます。だからこそ家族の生活スタイルや価値観をきちんと反映させた家づくりをする必要があると思います。それと住まいのデザインには、機能的であるとともに心を満たす「用の美」が大切です。これらを重んじた住環境で生活すれば、自ずといい家庭が育まれるのではないでしょうか。うまくいけば資産価値も高まるでしょう。さらに美しい住宅が建てば、街並みも美しく進化していくという良いスパイラル効果が生まれます。

クルーズトレイン「ななつ星in九州」のデラックススイート。天然木が贅沢に使われ、建具は組子、天井はドーム型に格子のモールで装飾した仕上げ。窓にはカーテン、板戸、障子、木製ロールブラインドが備わっている。

・永く愛されるデザインとはどんなものだとお考えでしょうか。

「懐かしくて新しい」が僕のデザインのコンセプトです。世の中で永く愛されているものは、過去と未来の両方を見つめてつくられていると思うからです。また、美しいだけじゃなく、気持ちが明るくなる、豊かな会話が生まれるといった要素も不可欠でしょう。何十年経っても愛されるデザインは流行を追ったものではありません。常に本質、つまりあるべき姿を追求してこそ、時代を超えた普遍性が生まれるのだと思います。

水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)

株式会社ドーンデザイン研究所・代表取締役。建築・鉄道車両など幅広いジャンルのデザインを手がける。特にJR九州の鉄道車両や駅舎デザインでは広く注目を集め、菊池寛賞・毎日デザイン賞・ブルネル賞・ブルーリボン賞など多くの賞を受賞。主なデザイン作品に、クルーズトレイン「ななつ星in九州」、JR九州の新幹線800系、特急車両の787系、883系、885系、和歌山電鐵「たま電車」、「たま駅舎」などがある。

  • 連載「住まいとお金」ファイナンシャルプランナー 久谷真理子
  • わが家の建てどきガイド
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