Column│新しいライフスタイルのご提案や、子育て、オーナーさまのこだわりのお宅拝見、
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持続可能なまちづくりと「つながり」をつくる住まい東京都立大学教授 都市計画家饗庭 伸

多くの社会課題を抱える現代、これからのまちづくりはどうあるべきなのか。東京都立大学の教授として、都市計画について研究している饗庭伸さんにうかがった。

住まいは新技術を運ぶ乗り物

── 饗庭先生が感じているこれからの住宅地における課題とは、どんなものでしょう。

饗庭 住民の高齢化や、福祉医療サービスの増加への対応をどうするかなどですね。郊外の住宅地では人口が高齢者に偏り、住人同士のコミュニティがないという問題もあります。高齢になった住民が孤立し、近所に知り合いがいないという状態が生まれています。

都市開発の代表例である「多摩ニュータウン」。東京西南部の多摩丘陵に位置し、八王子、町田、多摩、稲城の4市にわたって開発された。戦後の高度経済成長期、東京の深刻な住宅難に伴って既成の市街地から周辺へと開発が拡大。乱開発を防ぎ、居住環境を考慮した宅地や住宅を大量に供給するために計画されたのが「多摩ニュータウン」だ。現在は、人口約22万人。住宅をはじめ、商業、教育、文化といった多様な施設が立地する多摩地域における複合拠点となっている。

── 解決には、人と人がもっとつながる状況が必要でしょうか。

饗庭 確かにつながりは大切ですが、それだけに頼っていてはパワーが足りません。情報や技術でサポートする都市計画が必要だと考えています。住宅地は長い年月をかけてゆっくりと変わっていきます。放っておいたらなんとなくバッドな状態になってしまいますが、バッドをベターにするのが技術の役割です。まちに埋め込まれる新しい技術は、4つの乗り物に乗ってやってきます。乗り物とは、「住宅」、「クルマ」、「家電製品」、「スマートフォン」です。たとえば住宅なら、ヒートショックを防ぐ浴室といった技術。自動運転とセンサーを組み合わせたクルマなら、高齢者の徘徊の発見・見守りにも活用できます。

── 住まいの役割は大きそうですね。

饗庭 古い住宅地の場合、新しく家を建替えた人は技術の恩恵を受けられますが、一方で古いままの家もあるので、そのままでは問題を解決できません。そこで提案したいのが、新しい技術を埋め込むときに、その周囲にも技術を入れていくことです。Wi-Fiを考えるとわかりやすいですね。一つのWi-Fiを複数で使い合えれば、すべての住民が持っていなくても、ある程度の台数があればまち全体をカバーできます。今はパスワードで管理される時代ですから、実際に個人のWi-Fiがそのように使われることは考えづらいですが、イメージとしてはそういうことです。

▪賢い都市計画の実践新築されたマイホームや入手した新車、家電製品の導入、スマートフォンによって埋め込まれた都市を支える技術が、まち全体にどのように広がっていくかを示した模式図。Wi-Fiに例えると理解しやすい。

持続可能なまちづくりのために

── 住宅メーカーに期待することはありますか。

饗庭 持続可能なまちづくりのためには、住宅メーカーがタウンマネジメント組織を立ち上げておいて、その運営のためのお金も分譲価格に含んで販売することが大事だと思います。まちの運営には意思決定が必要となりますから、意思決定できる組織の基盤をつくっておくことも大事です。それと先述した技術をどう導入していくか。自分の新しい家に埋め込まれた技術がまちのためにも使われますが、その恩恵はあなた自身にも返ってきますと、そこをしっかり理解してもらったうえで販売していただくことが望ましいですね。

▪住宅地はどう変わっていくかライフステージによる暮らしの変化と、暮らしを支える技術について表したグラフ。都市計画には、地域ごとに必要な技術を埋め込むことが必要だという。

── これからのまちづくりのビジョンを聞かせていただけますか。

饗庭 歴史を振り返ってみると、都市計画のなかで住宅は伝統的に守られる存在でした。たとえば、工業地帯と住宅を切り離して、住環境をよくするといった具合ですね。工場やお店がどんどん増える時代でしたから。ところが今はその関係が逆転し、工場やお店の跡地に住宅が建てられています。働く場所がないのに住宅地ばかりが増えていくことには疑問を感じています。暮らしの空間だけで独立させるのではなく、モノを生産する場所や仕事の場所と住宅をどう接続させるかを考えることも、とても大事です。

▪これからの住宅地の課題は何かこの20年間、都市がどの世代の暮らしと仕事を支えてきたのか、東京都を例に表したグラフ。人生100年時代、高齢者を含めて仕事を意識した住宅地づくりが求められている。

── 生産の場所が接続するメリットとは何でしょうか。

饗庭 わかりやすいのは農業ですね。1年間で農作物が育つのを観察でき、食べ物ができていく過程を実感できます。住宅地が近ければ、窓からぼんやり眺めることもできますし、子どもにとっては最初に刷り込まれる環境として良好な影響も与えてくれるでしょうね。

── 住まいづくりを考えている方にとっては、どんなまちを選ぶかという意味でも参考になります。

饗庭 伸(あいば・しん)

東京都立大学教授/都市計画家
1971年兵庫県生まれ。東京都立大学 都市環境科学研究科 都市政策科学域教授。都市の計画とデザイン、そのための市民参加の手法や市民自治の制度、NPOなどについての研究を行っている。主な著書に『都市をたたむ~人口減少時代をデザインする都市計画』(花伝社)、『白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか』(共著、学芸出版社)などがある。

コロナ禍の状況で住まいづくりを決断 今だからこそ手に入れる意味とはコミュニティデザイナー山崎 亮

15年前に「コミュニティデザイン」という言葉を提唱し、デザイナーとして活躍中の山崎亮さん。そんな山崎さんに、コミュニティデザインを通して得た住まいに対する考え方をうかがった。

高齢化や人口減少、市街地の衰退などのさまざまな地域課題を、住民と一緒に解決する。そのための人と人とのつながり方やしくみをデザインするのがコミュニティデザインという仕事。山崎亮さんは、その草分け的な存在だ。
「15年前までは住宅の設計も手掛けていました。ですが住まいを建てたことがゴールになって、その先の暮らしについて考えない仕事に違和感を覚え、住宅設計から離れてしまいました。その後に始めたコミュニティデザインはむしろ逆。どう暮らしていくか、つまりモノよりコトを考える仕事です。そのせいか、私自身は家を所有することに関心がありませんでした。ところが今年の1月に土地を購入し、今はそこに建てる自宅を設計中です。自分でもびっくりする考えの変化ですね(笑)」

住まいの一部に設けた「パブリック」な空間は、人と人とをつなぎ、人とまちの結びつきをうながし、地域で暮らす人々の人生を豊かにする。人のつながりの大切さは、いつの時代でも変わらない。

人と人とのつながりを大事にする一方、住まいにはひとりになる空間も必要。仲の良い家族でも、適度な距離感を保てるように設計するのも大切。

きっかけとなったのは、新型コロナウイルスの感染拡大。社会や人と人とのつながり方が変わり、住まいの重要性も高まるはず。その考えが土地の購入を即断させた。
「設計中のプランでは、1階の道路に面した空間は、地域の人がいつでも自由に立ち寄れるパブリックスペースになる予定です。近所の子どもたちも集まりやすいように、お菓子を置いておこうと思っています。その奥にあるのが私の仕事場。間には開閉できる仕切りがあって、私の機嫌がいいときは開け、悪いときは閉じて仕事をします(笑)。上階は居住空間。家族が適度な距離感を保てる設計です。どんなに仲の良い家族でも、ひとりの時間は大切ですからね」

リモートワークなど通勤を必要としない働き方の増加は、居住する地域をより自由に選択できる機会に。自分にとっての「適疎」となる地域について考えてみよう。

山崎さんが手掛けるコミュニティデザインでは「適疎」という考え方が提唱されている。適疎とは、適度にまばらであるという意味。
「どの程度が適疎かは人によって異なります。渋谷のような過密が適疎な人がいれば、自然が豊かな郊外が快適な人もいます。『過疎と過密』は70年代からの問題ですが、自分にとっての適切な密度を見直し、住む地域を選択することは、問題解決の鍵になるはずです」
適疎の考え方は住まいづくりにも通じる。設計中のプランでは、家族が集まりたいときは集まることができ、ひとりにもなれ、パブリック空間では地域の人々に出会えるという、3つの適疎がデザインされている。

山崎さんが携わった北海道沼田町でのコミュニティデザインのワークショップ『これから塾』。住民とともに地域の拠点づくりを目指す。

「プライバシーを過剰に確保した住宅では、人と人とのつながりが失われます。日常的な会話がなくなると、人は虚弱な状態に陥り、体を動かす意欲も無くなります。今の日本は超高齢化社会。このまま加速すると、医療や介護の税金負担が増え、限界を迎えます。人のつながりを生むパブリックな空間のある家は、健康寿命を延ばし、高齢化社会の課題を解決する一助にもなるはずです」

島と人をつなぐ観光まちづくりイベント『瀬戸内しまのわ2014』。会期終了後も地域を元気にする「まちづくり」活動をサポート。

この他、オンラインのつながりに対応できる在宅ワーク空間の必要性など、コロナ禍以降の住まいには、より多くの役割が求められていると語る山崎さん。
「私たちのワークショップもオンラインでの開催が増えていますが、しぐさや表情などの情報量は対面に比べてぐっと少なくなりました。場所の空気感や、自分たちを取り囲むいろいろなモノなど、感性を刺激する要素も無くなります。その弱点を補うためには、参加者各自の環境にお互いを刺激し合える要素を用意することが必要です」

沖縄県名護市で開催された『よってたかってゆんたく』。名護市をどんなまちにしていきたいかを、地域の市民が楽しく語り合うワークショップだ。

設計中の自宅プランにも、その考え方は反映されている。1階の仕事場は、仕切りを開けておけば、遊んでいる子どもたちの姿がオンライン会議に映し出される。予定調和でない刺激は、クリエイティブな発想の燃料になるはずだ。 「家自体の価値だけでなく、家がもたらす人とのつながりや、新しい発想が生まれる場としての価値。私はそこに惹かれているのです」
住まいの役割が増えることは、人生をより豊かにしてくれる歓迎すべき変化――。山崎さんのお話に、そんな住まいの可能性を感じた方も多いはず。

山崎 亮(やまざき・りょう)

studio-L代表、慶應義塾大学特別招聘教授。
1973年愛知県生まれ。地域の課題を地域に住む人たちが解決する「コミュニティデザイン」の第一人者。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザインなどに携わる。主な著書に『コミュニティデザイン』(学芸出版社)、『ケアするまちのデザイン』(医学書院)など。

新しい日常を安心して子育てができる住まいとはAERA with Kids編集長江口祐子

大きく変わりつつある社会のなかで、これからの住まいは、子育ての場としてどうあるべきなのだろうか。 育児誌の編集長として、専門家や子育てファミリーへの豊富な取材実績を持つ江口祐子さんにお話しを伺った。

社会の変化は親子の関係にも

── コロナ禍の社会変化は、親子の関係にも影響を与えているのでしょうか。

江口 確実に影響していると思います。在宅ワークの増加などで親子が一緒にいる時間が長くなったため、以前よりも仲良くなったという家庭があります。その一方で、今までは気にならなかった細かいことまで目についてしまい、つい子どもを叱りすぎたり、親子げんかが増えてしまったりという家庭もあるようです。家族のあり方が二極化しているという印象です。

── 子育てには親子の距離感が大切といわれていますが、大人にとってもストレスを溜めない程よい距離感が必要かもしれませんね。

江口 他にも、ある程度のルールを決めておくことが必要だと思います。こういうときは叱るけど、こういうときは見守っていようといったルールです。今は家事も子育ても夫婦でシェアする時代ですから、そのためのルールづくりも大切ですね。また、夫婦といえども育った環境は違いますし、あえて口にしてこなかった小さな生活習慣の違いなどもあると思います。そうした価値観の違いを見直すためにも、たとえば、我が家にとっての新しい常識、我が家の信念のようなものを、「家訓」としてつくってみるのもいいでしょう。

家事や子育てのシェアが大切に

── 社会の変化に伴い、子育てについてもこれまでとは違う意識が必要なのでしょうか。

江口 家事や子育てをみんなでシェアする。それが一つのキーワードになると思います。親子で家事を楽しくシェアできれば、会話も増えますよね。また、子育てについても、家族という単位を超えて、たとえばママ友など、共感できる人をどんどん巻き込んでシェアする。そうすることで親も気持ちが楽になり、子どもも親以外の大人と触れ合うことで成長します。

── ママ友同士で、何かを頼み合ったり、子どもを預け合ったり。

江口 それが気軽にできるためには、子育てや家事をシェアしやすい環境が住まいにあること。たとえば、人が入りやすい少しオープンな家の方がいいでしょうね。

── 人を迎えやすい家とはどんな住まいでしょうか。

江口 子どもがいれば絶対に散らかりますから、来客時に片付けやすい家がいいですよね。一気に片付けられる大きな収納があると便利だと思います。けれど、完璧にキレイにしなければと気負う必要はありません。子どものいる家の片付けが大変なのは、ママ友同士なら理解し合えます。プロの家庭教師のなかには、部屋が適度に雑然としている方が、子どもが伸びるとおっしゃる先生もいます。本やおもちゃなど、知的好奇心を喚起するものが子どもの視界にあるような、そんな環境ですね。

今は正解の無い時代

江口 最近の取材では、多くの先生が「今は正解のない時代だ」とおっしゃっています。そんな時代を生き抜いていける子に育てること。それがこれからの子育てのテーマです。目標を立ててゴールを目指しても、それが正解とは限りませんから、失敗しても、もう一回立ち上がっていけることが大事です。そこで必要なのは、大人が安全で安心な環境をつくり、失敗しても笑顔で見守ってあげること。失敗しても、大丈夫、また挑戦すればいい。そんなふうに思わせてあげることが大切です。

── リラックスできる家なら、大人にも、笑顔で見守る余裕をもたらしてくれそうです。

江口 子どもにとって住まいが果たす役割は、食事や睡眠、学びの場などさまざまですが、何よりも大事なのは、子どもの心が安定し、心身ともに健やかに育てられる場所であることだと思います。

── 心から安心できる家。それは社会がどんなに変わっても、変わらない住まいの役割なのかもしれませんね。

江口祐子(えぐち・ゆうこ)

生活情報誌や一般書籍の編集を経て2009年より「AERA with Kids」編集部へ。教育専門家、小学生を持つ読者の取材を重ねる。2018年より編集長。中学2年生の女子の母。

新しい日常を安心して送るために在宅避難も視野に入れた災害対策NPO法人プラス・アーツ理事長永田宏和

被災地の調査や多くの被災者の方へ取材を行い、防災教育に取り組む永田宏和さんに、災害発生時のリスクや対策、平常時の暮らしでできる準備などについてお聞きしました。

災害時のリスクを把握しよう

── 永田さんはこれまでに、数多くの防災マニュアル制作にも携わっています。そうした活動を通して感じている、防災における一番の課題とは何でしょうか。

永田 実際に災害が発生した場合に、自分がどんなリスクに見舞われるのか。それをイメージできていない方がとても多いことですね。

── 知っておくべきリスクとはどのようなものでしょうか。

永田 一つは、自分の住む場所の自然災害リスクです。国土交通省が公開しているハザードマップでは、洪水や土砂災害、津波のリスク情報をはじめ、その土地の特徴や過去の災害事例など、さまざまな情報が得られます。本来ならそこに住む前、家を建てる前に知っておきたい情報ですが、住んだ後でも、それを知っているかどうかで、災害発生時の対処の仕方に差が出ます。

NPO法人プラス・アーツの防災訓練「イザ!カエルキャラバン!」の一幕。家具の転倒防止などを学べるプログラムだ。

── 対処の仕方を教えてください。

永田 たとえば水害発生時の対処ですが、川の氾濫リスクがある場所とない場所とでは、家にとどまるべきか、すぐに避難すべきか、その判断も大きく異なります。

── 今や水害はあらゆる地域で起こりえるリスクといえます。2019年10月に発生した台風19号では、東京都内でも避難所が収容しきれないほどの人であふれかえる事態になりました。

永田 足の踏み場もないほどの状況だったそうです。避難所での生活は、精神的・肉体的に大きな負担がかかります。たとえば、トイレ。大勢の人が使うため、掃除が間に合わない。仮設トイレは和式が多く、高齢者はしゃがむことができず、子どもは慣れていないためうまく使えない。結果、汚れもニオイもかなりひどい状況です。 使うのを我慢して体調を崩す方もいます。他にも、明るくてうるさくて眠れない。ストレスのためにあちこちで言い争いが起こったり。 新型コロナウイルスの感染リスクも考えなければなりませんね。避難所はなくてはならない場所ですが、可能ならば在宅避難を考えるべきだと思います。

普段から在宅避難の準備を

「避難生活サバイバルキャンプ」では、チラシや新聞紙を使って食器づくりにもチャレンジ。

── 永田さんが監修された「防災イツモマニュアル」でも、在宅避難を推奨されていますね。

永田 そのためにも我が家の安全を確認しておくことが大切です。まずは地震などに耐えられる家かどうか。家具が転倒しないように工夫することも必要です。なんといっても大切なのが非常食や防災用品の備蓄です。少なくとも1週間分は備蓄量が必要です。

── 家族4人分では、どの程度の量になるのでしょうか。

永田 たとえば飲料水なら、2Lのペットボトルを30本は用意したいですね。

── その他の食料品や防災用品のことも考えると、置いておく場所を探すのも大変です。

永田 人がいる場所に積み上げておくと逆に危険です。災害に強く、在宅避難に適した家とするためには、「備蓄庫」などを用意する配慮が必要です。備蓄した食料や飲料水は、日常生活で消費して使った分を補充するという「ローリングストック法」をおすすめします。これはトイレットペーパーのような日用品やペットの餌や猫砂などでも使える方法です。

スポーツで楽しく防災を学ぶ「防リーグ®」。"毛布"を担架代わりに負傷者を安全に速く運ぶレスキュータイムアタック。

── ミサワホームの住まいでは、備蓄にも適した大収納空間「蔵」の設計が可能です。

永田 それはすばらしいですね。在宅避難できる家が増えれば、避難所の密集を減らせます。
「 密 」を避けなければならない昨今の情勢を考えると、在宅避難は社会への貢献にもなります。けれど、たとえ在宅避難をした場合でも、落ち着いたら避難所には通った方がいいですね。物資の配給や給水などは避難所が中心です。家にいても情報が回ってきません。避難所を情報の入手拠点として活用したいですね。

永田宏和(ながた・ひろかず)

NPO法人プラス・アーツ理事長。兵庫県西宮市生まれ。大学で建築を学び、大学院ではまちづくりを専攻。大手ゼネコン勤務後、企画プロデュース会社「iop都市文化創造研究所」を設立。家族が楽しみながら防災を学ぶプログラム「イザ!カエルキャラバン!」の開発をきっかけにNPO法人プラス・アーツを設立。2012年からデザイン・クリエイティブセンター神戸の副センター長も務める。

100年後もまちに残る 未来の住まいと暮らし一級建築士山﨑健太郎

私たちの暮らしと社会が大きく変わりつつある今、建築家が考える未来のグッドデザインとは。
住宅や病院、福祉施設、公共施設など、さまざまな建築を手掛ける山﨑健太郎さんにうかがった。

100年先を見据えた建築を

── 新型コロナウイルスの出現は、暮らしを一変させました。この状況は、これからの住まいづくりも変えていくのでしょうか。

山﨑 確かに暮らしは変わりました。けれど、そこでの多くの課題は、実はみんなが以前から薄々感じていたことです。たとえば職住の問題。リモートワークのような柔軟な働き方は以前から推し進められていましたが、住まいの中に そのための快適な環境がありませんでした。そうした課題が、この機に一気にあらわになったというのが今の状況です。

―― 人のつながりの大切さをあらためて実感している人が多いのも、同様のことといえますね。

山﨑 目の前の変化に建築が応えていくのはもちろん大切です。けれど、建築とは50年、100年という歳月に耐えるもの。状況が変わったからといって私たちが大切にしてきたものまで変えてしまうという考え方は、少し違うのかな と感じています。むしろ、時代が変わっても変わらない普遍的な価値をあらためて掘り下げる。それが必要かもしれません。

「便利さ」よりも大切な価値を

山﨑 今ある社会のニーズに応えようとすると、つくり手は便利なモノをつくろうという発想になってしまいます。それは目の前の状況に対してはとても便利でも、別の状況では融通が利かないといったことに陥りやすい。現代は価値 観も多様化していますし、成熟した価値観をお持ちの消費者も多い。そう考えると、便利なモノを届けるのではなく、住まう人にどうやって使い方をゆだねるか、そこを考えることが大切だと思います。

―― 山﨑さんが手掛けた「未完の住まい」でも、その考え方が大切にされていますね。暮らし方の変化に合わせて、使い方を自由に変えられる住まいです。

山﨑 自由に変えられる空間といっても、何もない一部屋を差し出すわけにはいきません。そこが設計の難しいところであり、設計者として腕を問われる部分です。

―― こんなふうに住んだら楽しい。そんな気づきのヒントがさりげなくちりばめられた空間なら、住む人の発想を刺激して、暮らし方や楽しみ方の可能性をさらに広げてくれそうですね。

大切にすべき普遍的な価値とは

山﨑 そうした建築を考えるうえで、いくつか大切なテーマがあります。その一つが、人間の身体感覚です。例を挙げるなら、室内の温熱環境。オフィスビルの設計の場合、多くの人にとって快適な環境は、室温26℃、湿度40〜60%と されています。ですが、「快適」の感じ方は人によって千差万別。空調が不均質だとしても状況によっては許容されるのではないかという考え方もあります。たとえば、空間の一部を26℃に、別の一部は28℃にしながら外気が感じられる 状況をつくれる設計とする。人が自分の快適さに合う場所へ移動することになりますが、それは不便ではなく「価値」になるわけです。

―― 若い人たちの間でもアナログレコードに人気が集まるなど、あえてひと手間かけることを楽しんでいる方が増えています。これも身体感覚で味わう楽しさですね。

山﨑 身体感覚は楽しさや心地よさの重要な鍵ですよね。同じ26℃でも、空調と自然の風とでは、感じる心地よさが違います。そうした感じ方は、時代が変わっても、変わることのない大切な価値です。それをどうやって建築に織り込む か。これからの建築にとっての大切なテーマですね。

―― 人によって異なる多様な価値観や心地よさを大切にできること。その答えの一つが、使い方を自由に変えられる住まいなのですね。

山﨑 100年後の未来を断言できる人はいません。どんな状況や価値観にも応えられる自由な住まいが、これからは必要かもしれませんね。

山﨑健太郎(やまざき・けんたろう)

一級建築士。株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ 代表取締役。
1976年千葉県生まれ。2002年工学院大学大学院修了。2008年山﨑健太郎デザインワークショップ設立。子ども、高齢者、障がい者など、あらゆる人にとっての心地よい居場所の模索や、地域にも貢献する建築のあり方などを真摯に追及 した建築は、国内外の多くのアワードを受賞。現在、工学院大学・東京理科大学・早稲田大学非常勤講師、明治大学・法政大学兼任講師。2020年よりグッドデザイン賞審査委員。

  • 連載「住まいとお金」ファイナンシャルプランナー 久谷真理子
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